2022-07-31

さて、先の6月23日より、「AV出演被害防止・救済法」、いわゆるAV新法が試行された。法の骨子としては、AV出演契約の際に契約関係を明文化し、その内容を出演者説明すること、撮影における同意のない行為禁止契約から撮影撮影から販売までの間に一定モラトリアムを設けること、出演者契約から1年間は無条件に契約を解除できる権利を持つこと、などというものであり、成人年齢の引き下げに伴って、責任能力不安のある新成人を中心とした、女性AVにまつわる被害を防止することを目的としている。

私の考えるこの法制問題点は、法が実際のAV業界実態に即しておらず、法の施行に伴ってAV業界で働くセックスワーカー雇用を奪うだけにとどまらず、「AV被害者」を増加させかねないというところである

第一に、AV業界セックスワーカー雇用が奪われる問題についてであるAVに出演する女性は、非常に流動的であり、この法で定める1年間の契約解除期間を必ず守るであろう女性を見極めるのは、当然メーカーにとっては困難である。そして、実際にAV販売前に契約が解除されてしまった場合メーカー撮影コストをはじめ広告宣伝費プロダクトの製造費用等を回収することはできず、丸損となる。また、AV女優の中で、ひとりで作品に出演することができるほど人気のある女優は全体の20%に満たないとされ、その他の女優は、複数女優が出演する作品女優の一人としてAVに出演する。このうち後者場合、新法適用後、メーカーにとっては、ひとつ作品に出演する女優が多ければ多いほどその作品が「だめになる」可能性は上昇するため、必然的にそうした作品撮影を避けることになり、先に挙げた残り約80%のAV女優雇用を失う可能性がある。すでにそうした動きはメーカーにみられ、撮影の中止が相次ぐなど、先行きは芳しくない。法案を提議した政治家やそれを支援した人権団体は、本当にAV業界クリーン化を目指しているのか、あるいは実際にはAV業の排除を目指しているのか、定かではないが、少なくとも前者をスローガンとして掲げている以上は、現場AV女優ベネフィットがある形での法制化を検討することはできなかったのだろうか。法制化という実績にかられて、セックスワーカー権利を置き去りにした、政治家人権団体の身勝手体現した法であるというように思えてならない。

第二に、新たな「AV被害者」を増やしかねないという点についてである。近年、にわかに数を増やしつつある「似非AVとして、アンダーグラウンドでペイ・パー・ビュー方式により販売されているものがある。これは、国内法の規制の届かない海外本拠を置く日本語プラットフォームにおいて、素性のわからない個人法人独自撮影したAV等を出品するというもので、当然風営法違反するものであり、同プラットフォームにおける出品者から逮捕者複数出ていながらも、依然として出品数は増え続けている。このようなAVが増えている原因としては、法制施行から煩雑契約手続きをすっ飛ばし撮影販売可能であることからAV撮影者・出演者の双方に一定需要があったことや、国内法規制では不可能映像表現可能であることなどがある。そして、AV新法の施行により、先に挙げた「雇用を奪われた」AV女優がこうした危険AVに流れ、新たな被害を生むのではないかという指摘がなされている。政策立案に携わった人々にAV業界への十分な理解があれば、あるいは現場への十分なヒアリングなどが行われていれば、こうしたアンダーグラウンドAVに対する規制を強化していく案を盛り込むなど、実際にAV女優被害から防ぐ法整備につなげることができたはずだが、そうしたヒアリングなどはほとんど行われることはなかったという。

近しい知人に複数セックスワーカーを持つ身として、こうした性産業に関する政治動向には強い関心を持っていたのだが、今回のAV新法についてはただただ残念である。この法案の成立の背景には人権団体による強い後押しがあったといい、私なりにそうした団体について調べることもしたのだが、その関係者には元セックスワーカーもおり、それではどうしてこのような現場の実情を無視した法案が提出されることとなってしまったのか、理解に苦しむ。そうした人権団体が掲げる「女性権利向上」というスローガンには、もちろん私は賛成なのだが、AV新法から見て取れるように、一部の人意見のみを取り上げることによって、男女間の分断どころか、女性間での分断も招きかねないということを、法整備に携わる方々には十分に考慮していただきたい。

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