2021-08-12

[]笑う人②

私は旧家に生まれた男だ。妻との間には2人の男の子がいる。10歳と7歳でいずれも五体満足。この言い方が批判される時代かもしれないが、私にとっては可愛い息子だ。側から見ればなんの不満があるのかと言われるが、旧家に生まれ宿命みたいなものと戦いながら小さい企業経営している。殆ど収入不動産に頼っていていわゆる不労所得だ。

妻は私の身の回りのことをやってくれている。本当に感謝だ。今の時代では特段評価される方だと思う。いや、特殊すぎておそらく他者積極的評価できないだろう。周りは奥様すごいですねと言ってくれるが、この凄さがどこまで伝わっていることか。すごいなと尊敬しながらも私も甘えている。

お金心配はないのだから安泰であるが、私や私たちの子もの面倒だけをみているのではない。私の両親や祖母の面倒までみている。そんな私に訪れた大きな変化について今日は記したい。

連絡が来たのは3年前の昨日のことだった。今年と同じくらい暑い夏だった。

普段からお世話になっている税理士から電話だった。いつも秘書からの連絡なのに今日ばかりは当人からだった。要件を掻い摘んで話すと、顧客で紹介したい人がいるということだった。私が不動産取引会社経営していることからきっと仕事を紹介してくれるのだろうと息を弾ませた。二つ返事でアポイント確約した。お盆休みだが、特段の予定はなかったのですんなりと予定を組めたのだ。

会うのは連絡を受けた翌日だった。指定喫茶店に少しばかり早く着いた。汗をかきながらもジャケット羽織り、ノーネクタイスタイル椅子にかけた。この手の紹介は最初の印象で決まることが多い。紹介者がいることでおおよその確率で成約するが、紹介者の手前しっかりとしておかなければならない。先についてしまうと携帯電話で改めての指示があるのではないかと気になる。喫茶店の中は静かな時間が流れていた。あまり大きくない店舗にはカウンターも含めて20席くらいだった。このようなところでは他人を気にする必要があるなと少し感じた。私たちの用件では大体隠したいことが多いからだ。

しばらくすると、喫茶店入り口が開いて税理士と1人の同じ歳くらいの女性が入ってきた。軽い会釈とともにいつも通りの税理士のどうもという言葉からスタートした。三者いずれもアイスコーヒーを注文した。税理士世間話が始まった。この税理士はいつも世間話が長い。私たちが彼を訪問した時も長い。殆ど時間が本題ではなくそれに費やされる。まあ、社会情勢に耳を傾けることはとても大切なことなので問題ないが、今日ばかりは先に進んで欲しかった。こちらは仕事の話しだろうと踏んでいるので、どんな仕事かと勇足の状態だ。40分程度世間話は続いた。税理士の横に掛けた女性はうなづくこともなく、表情を変えることもなく40分そこに座っていた。

で、と税理士が切り出した。

こちらなんですが、私のクライアントさんで典明さんと同じような境遇の方でして」

長い文章相手に伝わりにくいというのはこのことだ。きっと話しづらいのだろうけども、なかなか本題に入らない。典明とは私の事だ。私もきっと話している時はそんなものだろうが、受け身になるとよくわかる。

「今回の話はとんでもない話なので無理であれば無理とおっしゃっていただいて構わないんです」

私が断るわけもない。毎日を忙しく動いているわけでもなければ、この手の人生相談にはとても重きを置いている。

こちらの方、大山田弘子さんと言います結構資産家のお嬢様で1人娘さん。ご結婚はされています。お子さんも2人かな?あ、3人だそうです。」

改めて見るとそこまでの美形ではない。いわゆるその辺にいるタイプでそそられる対象ではない。

「で、このたびご両親をなくされて相続されたんです。」

ほら、きた。相続絡みの話しだ。

「たくさんお持ちだったので私としてもとても不安だったんですが、無事に終わりました。」

拍子抜けする話だった。税理士に弄ばれているような気がした。

「なんですが、それでもまだまだご資産があって。今後のことを考えると何か対策しなければいけなそうなんですよ」

ほぉ。そう言うことか。今後の対策のために何かを買いたいということか。で、私が呼ばれたわけかと明日納得した。

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