2020-07-01

旅が終わる気がする

私の故郷はとても寒い場所にあって、そこで大人になるまで暮らしていました。

事情があって町を出てから初めて、あぁ、私はここから本当に離れたかったのだなと気がつきました。

一人暮らしを始めた日は大雨警報が出ていて、ラジオから空港で足止めになった人がインタビューを受ける声が聞こえました。

これから暮らす知らない街は嫌がらせのように道が入り組んでいて、番地の順番はひどく不規則でした。土砂降りの中、散々迷ってほうほうのていでアパートに辿り着いたとき、私は全身ずぶ濡れで、まるで服のままシャワーを浴びたかのようでした。

電気がまだ通っていなかったので部屋の中は真っ暗でした。ドアを開けると、安くて古い家特有匂いがして、一歩進むごとに床がぎしぎし鳴りました。アパート廊下の灯りに照らされて、自分だけの部屋に一人佇む私のシルエットが浮かぶのが見えました。

それを見た瞬間、お腹の底からわーっと力強いエネルギーのようなものが湧き上がってきました。

半径数十、いや数百キロメートル圏内には私のことを知っている人はたぶん誰もいなくて、その事実はしびれるような幸福感をもたらしてくれました。

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それから数年間、色々な街を転々としてきました。

色々な街に住むための行動を起こしたのではなく、そのときどきで必要な行動をした結果色々な街に住むことになったのですが、

無意識のうちに移動を伴うような選択をしてきたのかもしれません。

夜の車窓から見える街の明かりのせいで心細くなるので、旅は好きではありませんが、

知らない街でそこの住人に擬態して生活するのはとても楽しいことでした。

その土地の美しい景色独自生活様式、特徴的な食べ物、そしてそこに住む人々について知るたびに、自分がまるで文化人類学者であるかのような気がしました。

そして、

何か嫌なことがあったり、滅多にないことでしたが人間関係にまつわるトラブルに見舞われたとき

最悪引っ越せばいい、と思えるようになってからは、悲しい気持ちや、人への執着や、期待といったものを水に流すことができるようになりました。

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今の街に来てから、もう四年間が経ちました。

適度に都会だけれども人々にはよそよそしさがなく親しげで、食べ物も美味しくて、とてもいいところだと思います

ですが、しばらく同じ場所に住んでいると何だか息苦しくなってきて、変化が欲しくなってきます

本来ならばこんなに長くここにいるつもりはなかったのですが、なぜ留まり続けているかというと我ながら陳腐だなぁと少し呆れるのですが、好きな人ができたからです。

ここに来てしばらくして知り合ってすぐ好きになってしまったのですが、半ば世捨て人のような生活をしてきたので自分に自信がなく、そのため何らかの働きかけをする勇気が出ませんでした。なので、特別関係になりたいとは考えていませんでした。

そう思っていたのですが、ちょっとしたきっかけでとても親しくなって、一年ほど前からお付き合いしています

その人は、私と雰囲気は少し似ているのですが、

穏やかで、よく考えてからゆっくり話すタイプで、生まれからずっとここで暮らしていて、子供の頃からの友人と今でも親しくしていて、とにかくそういった意味全然性質が違う人です。

ずっと一緒にいたいなと思います。真偽のほどは不明ですが、その人も同じように言ってくれます

ある日、一緒に遠出したときに、私たちの住む街を見下ろせる小高い丘のようなところに行きました。

道中で、この街が好きですかと恋人に尋ねました。彼は、好きですねと答えました。

眼下に広がる街の明かりはとても綺麗で、繋がれた手のおかげで心細くなかったのですが、

私はずっとこの街で暮らすのだろうか?本当に?

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ときどき漠然とした言い知れぬ不安に襲われるのは、私のアイデンティティが脅かされているからだと思います

ずっと同じ場所暮らしていくのなら、これまでのやり方、最悪引っ越せばいいという姿勢はいられません。

それに、恋人と過ごしていると、自分境界がわからなくなるような気持ちになるのでした。

うまく言えないのですが、

一緒にいると、彼の体から出てくる粒子の細かい不思議な粉が私の肺の奥深くまで入り込んで、頭がだんだんぼうっとしてきて、

そうしている間に二の腕やらふくらはぎやらの軟らかい場所から順番に食べられていくようなイメージが浮かびます

最近では、自分無意識のうちに彼のような言動や考え方をしていることがあります

このまま放っておくと、私は恋人この街に徐々に侵食されて、いつか個を失ってしまうのではないかという気がしています

でも、それも悪くないと考える自分もいます。それどころか、むしろそうしたいとすら思っているのかもしれません。最近自分のことがよくわからなくなってきています

だんだんぼんやりしていく頭の中で、今まで暮らしてきた街の景色や人々、初めて一人暮らしをしたときのわくわくするあの感じ、寒くていつも天気が悪い白くて小さな私の故郷ことなどを考えて、

旅をしてきたのではないはずなのに、楽しい旅だったなと、胸のところがすうすうするけれども懐かしくて暖かい気持ちになって涙がこぼれました。

  • それでもいい。サンは森で、私はタタラ場で暮らそう。ともに生きよう。会いにいくよ

  • こういうのは何故なろうに書かないんだろうね

    • 増田だから読んじゃうけれどなろうだと絶対読まないな。

      • 増田としても小説としてもクオリティ低いよね

        • 必ず↑のようにdisらないと気がすまない人いるよね。君には書けるのか?

          • 料理の批判はシェフしかするな理論

          • よしよしがついてるみたいだから正直に書けば・・・ うんち!!!!!!!!!!!!!! いつの間に反応付いたんだ? 真面目に書いたっぽいものに反応無い時点でうんちをつけるの...

        • 嫉妬丸出しで草

  • 今後変えようがない決断をすることは覚悟がいることで、その覚悟をするときは、これで良いのだろうか?ホントは他の選択肢があったのではないか?と悩みますね。 彼とずっと付き合...

  • 好きな文

  • これきらい

  • 引っ越し魔『チッ・・・コイツの魂を喰らい損ねたわい』

  • とても面白い。書き終えた今、この感想を読む増田は、自分の揺らぎに戸惑っていた以前の増田ではなくなっているのかもしれないが。 ただ、場所移動だけが旅ではないと思う。今度は...

  • 助動詞がおかしいとかけっして美文ではないけれども、なぜだか怒る気がしなかった文章。 まあ伸びるでしょうこれは。700は想定してなかったけど。

  • 素敵な文章やね プロかしら? ポロッと来た   それにしても、こういうネット文学が刹那的に消費される現代って幸せなんだろうかと。 20年くらい前の俺ならたぶんテキストを保存し...

  • あなたは、その過ごしてきた時間が本当に存在していたのか、聞いて確認できる人がいるのですか? もしあなたのその思い描いている時間の経過を問うて返ってきた答えが、自分の中で...

  • まあまあいい増田。    細かい粒子が肺にとか、二の腕やふくらはぎを食べられるの部分が嘘くさい。 いらない描写だ。

  • まだ終わりじゃなくて始まり。

  • 昨年末の夜勤増田以来の、増田式アウトサイダー文学。こういうの、半年に1回くらいでちょうどいいね

  • 読点の少ない太宰かな

  • どちらかといえばうんち案件では

  • この手の小説風文章は全くよさがわからんな

  • ランボーのラストみたい

  • 旅が終わる気がする https://anond.hatelabo.jp/20200701020926 モデルハウス奇譚 https://anond.hatelabo.jp/20200704004128 お弁当工場にて https://anond.hatelabo.jp/20200705055231 他にあったら教えてください。

    • 坂の上の家のはなし、とかなかったっけ

    • 旅が終わる気がする 坂の上の家のはなし モデルハウス奇譚 お弁当工場にて パウエルストリート駅

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