https://mainichi.jp/articles/20161106/k00/00m/040/144000c
現在では、「1990年代初頭にバブルが崩壊したら、即座に『失われた10年(20年)』が始まった」というイメージがあるようだが、これは実感に大きく反する
「失われた10年(20年)」「就職氷河期」というフレーズは、いずれも小泉改革後の2005~10年代ごろ、改めて1990年代を振り返って出てきた定義のように感じる
1970年代生まれの当事者として、1990年代の印象はこんな感じだった
・1991年:バブル崩壊の年といわれるが、ジュリアナには踊る若者が多数集い、悲惨な印象はなかった
・1993~94年:ようやく「女子大生の就職難」が盛んに報道される。男子学生も就職難だが女子の方がもっとひどかったから
・1995~96年:阪神大震災、地下鉄サリン事件、Windows95発売、小室ファミリー絶頂期、エヴァンゲリオンのブームなどで、就職難や不況の報道は影に隠れてた
・1997~99年:ITバブル起業ブームが派手に喧伝され、上記グラフでは就職率が最悪期のはずなのに負け組はほとんど報道されなかった
・2000年以降:マクドナルドで半額セールの常態化、牛丼チェーンの値下げ合戦などで、ようやくデフレスパイラルが本気で実感として広まる
・2001~2005年:小泉改革で世の中良くなると一方的に喧伝される。結果はご存じの通り
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今では誰も信じてくれないだろうが、1990年代当時、高学歴の経済評論家も含めて、多くの人間は「数年待てばバブルが帰ってくる」と思っていた――というか、そう信じたがっていた
これは無理もない話である
未来というのはまったくの未知だが、過去は既に体験したことである。人間は物を考える手材料として、近過去の印象に強い経験に頼りがちだ。さらに、未来予想には希望的観測というバイアスがかかりがちである
当時は、まだ未知の不況・デフレより、既体験のバブルの方がずっと印象が強かったのだ
石油ショックの起きた1970年代なんざ「狂乱物価」などと言われ、皆インフレにこりごりした記憶が強く残っている
(村上龍の『'69』によれば、石油ショック前の1969年には、150円でラーメンを食べて牛乳を飲んで、カレーパンとメロンパンとジャムパンが買えた)
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自分の記憶に頼る限り、1990年代後半当時の20代の若者にすさまじい悲惨感があったかというと、あんまりそんな印象はない
俺個人のことを言えば、97年に1度失業したが、翌年にはNECの下請け企業に派遣社員として入り、時給は1700円(残業・夜勤は増額)出ていたので、最盛期は月収が36万5000円あった。当時、同年代の正社員でも手取りでは10万円台は多数だった。
短期的な視野で言えば、20代で「正社員より稼げてる非正規雇用」はいくらでもあったのだ。
無論、短期ですぐ職場を離れることになるが、同世代の正社員との差はまだ決定的ではなかった
「なんで氷河期世代は20代当時に声を上げなかったんだ?」と言われそうだが、当時はそこまで悲惨と思ってなかったし、自分が負け組だと認めるのを躊躇する意識もあったのだ
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氷河期世代が本気で自分らが悲惨だと認識せざるを得なくなったのは、ようやく小泉改革が終わって、赤木智弘が出てきた2007年ごろだと思う。1972~75年生まれなら35~32歳、このぐらいになると、逃げも隠れもできようなく、同世代の正社員との差が明確になる
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