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2017-03-11

デート焼き鳥屋ばかりで辛い

27歳、リーマン男。

付き合ってもうすぐ1年の彼女がいる。

顔はそこそこかわいく、友人に紹介すると俺にはもったいないと言われるほどの良い彼女だ。

しかし、どうしても我慢ならないことがある。

デートがいつも「焼き鳥屋なのだ

一度、焼き鳥屋以外に行きたいと彼女に言ったことがある。

彼女いわく、ひとりでは入りにくい。女子会では小洒落カフェイタリアンばかりで焼き鳥屋提案しにくい。彼氏(俺)なら気をつかわないし週一の楽しみだからなのだそうだ。

だってたまには可愛い彼女と小洒落カフェイタリアンに行きたい。

一度「俺が支払うから」と言ってフレンチに連れて行ったことがある。ディナーはすべてコース料理の店だった。

会計を終えたあと、彼女からお礼を言われたが、どうにもいつもの焼き鳥屋を出た後よりもテンションが低めだった。何か気に入らなかったか尋ねると、そうじゃない、料理は美味しかったしいつもと違った雰囲気で楽しかった、とかぶりをふる。

しかし、どうしても気になった。食い下がって聞いてみると、

背筋を伸ばしながらフォークナイフを使ってお上品に食べたり、ワインテイスティングをしたり、小声で会話をしたり、といったことに疲れてしまったという。

しかに、焼き鳥屋のように気負わずゲラゲラと笑っていい雰囲気ではない。いつもと違う雰囲気を、と思って張り切ったのが裏目に出てしまたか反省した。

そうしてずるずると焼き鳥屋開拓する日々が続いていたが、もう限界だ。

ゲン軟骨も、ぼんじりも、ふりそでも、ねぎまも、もう飽きた。

食感が違うだけで同じ味に感じてしまう。

焼き鳥屋以外で食事をしたい。

ついでにいうと去年のクリスマスだって焼き鳥屋だった。

クリスマスなんだからもっと良いお店にしてもいいんじゃないか」と言っても

「なんで?クリスマスチキン食べるじゃん。七面鳥も鶏も一緒だよ」だそうだ。

一緒じゃねーよ、ちきしょう。

2015-03-21

デーゲーム

心中しようと思った。彼女と一緒に崖から飛び降りるつもりだった。

それは最後なのだからと思って有給休暇を貰った日のことだった。

心中するのは夜中と決めていたから、朝起きてやることなんて何もない。

おれはふと野球試合を観たくなった。これと言って観たい理由なんて

なかったのだけれど、強いて言えば小中高と野球部に入って色々

練習を積んで来ていたからかもしれなかった。


それでおれたちは、どうせ死ぬまでの暇潰しと決め込んで近所の球場

出掛けることにした。野球をやっていたと言ってもおれの役割は大体

ベンチウォーマーだった。たまに代打代走で使われるくらい。

レギュラーになることはどうしても出来なかった。

春が近づいて来る外野席は結構かいのでおれたちは上着を脱いだ。

彼女の胸元に光っているペンダントが眩しかった。おれが買った安物だった。


彼女野球ことなんて何も分からないので退屈そうだった。まあ、それを

抜きにしてもダラダラした退屈な試合だったと思う。おれも最初のうちは

「あの監督サイン二塁打を打てという意味だ」とか出鱈目なことを

喋っていたのだけれど、それにも飽きて外野席のベンチの上で

ビール片手に試合を観ていた。眠気に襲われながら。

これから食いに行く最後の晩餐のことをぼんやり考えていた。


野球部時代にはあまりいい思い出がない。ベンチウォーマーだったのは

さっき書いた通りだ。部活が厳しかったわけではない。むしろ緩い方だった。

何せ煙草の吸い方も酒の飲み方も高校時代に教わったようなものだったからだ。

二日酔いに悩まされながらグラウンドをひたすら走ったことを思い出す。

噴き出る汗が酒臭かった。この汗で一杯やれそうだと思ったくらい。

そう言えばそんな頃に彼女と知り合ったんだっけ。いい思い出のひとつだ。


突然、バッターの鳴らす金属バットの音が聞こえてきた。音の鋭さからして

ホームランだろう。打球は狙ったようにこちらに飛んで来る。

つの間にか眠ってしまっている彼女を狙ったように。

おれはそれを素手でキャッチした。掌に痛みが伝わって来る。

その時に思ったんだ。これが生きてるってことなのかと。この痛みが

生の実感なのだろう、と。そう考えたらもう少し生きていようという気になった。


おれたちは最後の晩餐キャンセルした。そして居酒屋に行って

ぼんじりやつくね串なんかをつまみに呑み明かした。

からというわけでもないのだろうけれど、おれたちは今でも死にたくなると

デーゲームを観に行くんだ。選手たちの試合の中に、おれが失ってしまった

もの存在するような気がして。そしてそれを取り戻せそうな気がして。

彼女が作ったサンドウィッチを食べながら、相変わらずビールを呑みながら。


ちなみに、キャッチしたホームランボールはこっそり今でも玄関に飾ってある。


BGM:ユニコーン「デーゲーム

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