2024-07-01

友達の居ない誕生日

増田は四十路で、昨日誕生日だったんだ。

正直なところ友達が居ない。

からこれまで誕生日というのは陰鬱イベントで、忌避すべきものであると思って生きていた。

しか最近、ふと思うところがあった。

一人でも楽しめばいいじゃないか。そうしたことにようやく気付くことが出来たのだ。

婚活は上手くいかず、そのため一種の諦念があったのかもしれない。

ともかく俺は精一杯、自分誕生日を一人で楽しむことを決めた。

一週間前から当日の予定をワクワクしながら立て、昨日無事に実行してきた。

朝は8時起床。軽めに朝食を取って、そのあと動物園に向けて出かけた。

電車バスを乗り継ぎ向かった動物園は数年ぶりに訪れる場所であり、天候は曇り。

それでも目的の象やライオンを見ることができ、白熊ペンギンも可愛かった。

増田は平日も休日もずっとモニターにらめっこしていることが多いので、目の保養という意味でも意義は大きく、非常に癒されもしたので来て良かったと大満足。

お昼頃に動物園を出ると、事前に調べておいた食事処へ向かう。といっても決めておいたのはチェーンのとんかつ屋。それでも普段増田外食をしないので十分だった。

日曜だけありお店は混んでいて、俺はカウンターの一席に腰を落ち着かせると、ヒレカツ定食を注文。それにジョッキのビールもだ!!

待っている間、ごまをすりすり。すりすりすってすりごまをつくり、そこにドロリとしたソースを落としてすりごまと合わせ、揚げたてサクサクヒレカツに垂らしかける。

ヒレカツは非常に美味で、思わずご飯をおかわりしてしまったほどだった。じめじめして蒸し暑かったのでビールも非常に旨く、ごくっごくっと喉を鳴らして二杯を飲んだ!

大満足で店を出ると休憩に喫茶店コーヒーを飲みながら優雅読書。このために前日、書店文庫版の『百年の孤独』を購入しておいたのだ。

文庫本は書店の袋に未だ入れたままで、この日のこの瞬間のために開封せずに居た。初めての喫茶店でその店のブレンドコーヒーを注文し、深い味わいで美味しい。

増田コーヒーに全く詳しくないので多くを語れないが、乏しい舌でも十二分に味わい深さの分かる味だった。

ゆっくり、じっくりとそのコーヒーを味わいながら百年の孤独を読み始める。

このときばかりは小説の中の世界に傾倒し、日曜であることも、自分誕生日であることも忘れて熟読した。

気付くとコーヒーはなくなっていて、それはコーヒーカップを口に傾けても何も流れ込んでこないことでようやく分かったことだった。

カタン、とテーブルに置いたときのその音で現実に戻り、文庫から顔を上げると時計が目に入る。ちょうど15時前だった。

俺は喫茶店を出ると帰路に着く。

途中でシャトレーゼに寄り、ホールケーキを買った。

一人でホールケーキを食べる悦楽!!こんなことは本当はもっと若い時に体験すべきことだったと思いながらも増田は試したことがなかったのだ。

それは30代を終えることに対する挑戦でもあったのかもしれない。

それからスーパーキリンの500mlのビールを3本買い、家に着くと18時近くてすぐに電話をかけた。

もちろん、ピザショップにだ。

増田チーズが好きなのでウルトラチーズにした。ウルトラチーズのL。計画通りピザであり、クーポンを使ってお得に注文できた。

ピザが来るまでの間、童心に帰ったようにドキドキしながらピザを待ち、そわそわして増田を流し読みしては時間を潰した。

インターホォンの音に飛び上がるとすぐにピザを受け取って、キンキンに冷やしたビールと共にテーブルに並べる。

宴だ!

俺は一人きりであるのを活かすようにピザをくちゃくちゃ乱暴に食べ、ビールを大いに呷った。

気兼ねなくゲップを何度も漏らし、ピザむちゃくちゃ美味く、ビールはすぐさま2缶目を開けた。

飲み食いしながら好きなVtuber過去配信を観て、一人でがやがや笑ってピザを一人で食べ切る頃には酔いも回ってお腹も膨れていた。

俺は重くなった体を持ち上げ、冷蔵庫からホールケーキを取りだした。一人ですべてを食べ切るのは無理だろう。それどころか半分さえ食べられるか怪しい。

だがこう言ったもの雰囲気だ。雰囲気重要。俺はケーキを四等分し、その一つを皿に盛ってパソコンの前に戻った。

飲み物お茶に代えてケーキを少しずつ頬張りながら増田を読む。ケーキは甘くて、甘すぎるぐらいで、それでも懐かしいような味わいがした。

俺はケーキじゃなくて、誕生日を味わっているんだ。

そう思うとなんだか勇気が湧いてきた。

増田バカみたいな増田を読んで独りでに笑い、皮肉の効いたトラバを見てはゲラゲラ笑った。

気付けば22時を過ぎ。明日仕事だ。俺はケーキをなんとか食べ切り、ずいぶんと酔っぱらっていた。

倒れ込むように横になると気付けば眠っていた。

そうして俺は40の誕生日を過ごし、そして終えた。

今、昨日の残りのケーキを食べながらこれを書いている。

40の誕生日は一人きりだったが、それでも楽しめたと思う。

誕生日は、一人で楽しんでもいいはずだ。

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