2019-04-02

去年の春は最悪だった話1

家にテレビが無いから、社員食堂で垂れ流されているワイドショーけが情報源なんだけど

今日は桜の開花特集がやっていて、ふっと去年の春を思い出した

去年の春 桜が満開の駅で、ピカピカの新卒だった俺はうずくまっていた

新生活を始めたくなくて、新しく暮らす街の駅に着いた途端動けなくなったのだ

本当はこんなはずじゃなかったのに

俺は当時 内定をもらった中で、一番有名でデカくてCMもよくやってる所に就職した

福利厚生もしっかりしてるし、給料もいいし

デカけりゃ潰れる事も無いだろう

気ままに残りの大学生活を終え、卒業間近

一通のメールが届いた

合宿研修」の案内だった

詳細は割愛するが「数日間山奥で合宿」「携帯使用禁止」「外部には漏らさない事」

ネットでよく見るブラック企業研修 そのままの内容で一瞬頭がクラクラした

だけどもう卒業も目前に迫っているし

就職活動できる時期でもない

それに、山奥ってだけで内容は普通ビジネスマナーとか そういうものかもしれないし...そう誤魔化すうちに合宿の日はやってきた

結果的にいうと、ブラック企業研修のものだった

社会人としての心構えを作るために」新入社員は数日間山奥で叫び続け(特定出来ないよう詳細は省く)毎日毎日繰り返し訓練を続けた

夜は2人1組で宿泊部屋が与えられて、俺は真面目な眼鏡の男と同室だった

携帯禁止だろうが 外の世界情報がないと気が狂いそうになったので俺は夜中いつも携帯を触っていた

ネットで同じような体験談を読んでみたり

グーグルマップ脱出経路を探してみたり

付近バス停は無かったが(独自バスでここまで連れて来られた)4時間歩けば 交通機関にたどり着けるようだ

俺は同室の眼鏡脱出の話を持ちかけた

当初 眼鏡は気さくなやつだったのに、もう完全に笑顔が無くなっていたし、真面目な性格が災いしたのか 合宿の訓練での失敗を真剣に悩んで寝言で「すいません、すいません」と謝るほど病んでいて可哀想だと思ったのだ

俺の脱出計画を聞くと 眼鏡はすっくと立ち上がり部屋を出て行った

???

俺が呆然としていたら 眼鏡はすぐに戻ってきた 後ろに指導教官を連れて

眼鏡はすでに洗脳されていて

謀反者の俺をチクったのだ

俺は滅茶苦茶にしばかれた

肉体的にも精神的にもきつかったが

罵倒言葉行為より この状況にいる自分が惨めで ただ親に申し訳ないとそればかり考えていた

事が終わる頃にはもう日が暮れていた

食事時間はとうに過ぎて 食事場には誰も居ない

一人で冷めた弁当を食った

合宿中はずっとコンビニ弁当支給されて

飯の時間けが唯一の楽しみだった

合宿に行く前、家族就職を祝って俺の大好物すき焼きを作ってくれた

「よかったなぁ よかったなぁ」

「お前の良い所を見つけてくれる会社絶対あるって 言っただろう?」

「立派な会社に入って 自慢の息子だ」

弁当に少しだけ入っていた肉を食って そんな事を思い出してしまい 俺は急に怖くなった

この合宿が終わったら俺はどんな顔で家に帰ればいいんだろう?家族はきっと笑顔で「どうだった?」って聞いてくるだろう

本当の事を話したらきっと悲しませる

ちゃんと嘘つけるだろうか

それが一番怖かった

耐えて耐えて 合宿最終日を迎えた

全ての試験を終えたとき教官達は突然優しくなった

今までの俺たちを認める言葉を沢山投げかけて、もう20歳もすぎているのに 子供みたいに同期は皆泣いていた

円陣を組んで合宿終了を祝った

久々に暖かくてうまい飯も出た

帰りのバスで「いい経験になったね」と口々に語り合う同期達の隣で 俺はぼんやりと外の景色を眺めていた

来た時には積もっていたはずの雪が すっかり溶けて無くなっていた

ようやく一人になって家に帰るまでの間

俺はずっと迷っていた

本当の事を話して就職を蹴るか

それとも 耐えて入社して親を安心させるか

ただそんな迷いも親の顔を見たら意味が無くなってしまった

俺は元々甘ったれから

家族の顔を見た瞬間 きっと許してもらえると

そう思って 合宿の全てを話した

けれど俺の予想に反して 家族には認めてもらえなかった

そういうのは良くある話で、社会人とはそういうもので、多少の辛いことは乗り越えるべき せっかく大きな会社に入ったんだから、頑張りなさい そうやって励まされて励まされて

俺はやめる勇気もなくて、ただ鬱々とした気持ちばかりが大きくなって 入社日を迎えた

入社式では チラホラと空席を見かけた

俺のほかにも辞めたいと思った奴 やっぱりいるよなと安心した一方で、こんなにも(ほぼ全員)が辞めずに入社式に出ている事も異常だと思った

続きは後日書きます

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