「あ、父さん。インタビュー記事載ってるよ。献本だとかで家に届いた」
「え、あれ載せたのか」
父はまるで載らないと思っていたかのような、意外そうな反応をする。
俺はインタビュー記事のあるページ]を開いた状態にして、雑誌を父に渡した。
父はそれに目を通すと、ため息をついた。
そのため息は何を意味しているのだろうか。
「はー……どうするんだろうと思っていたが、随分な編集しているんだな」
「え、本当はもっと色々あったってこと?」
「色々あったっていうか……いや、お前が聞いてもあんまり面白くない話だし、この内容でいいのかもしれないな」
そう言うと父は本を閉じて、俺に返した。
詮索したい衝動に駆られたが、父に聞いてもロクな答えは返ってこないことを察して、俺は本を一瞥すると近くの棚に放り込んだ。
フォン:大丈夫ですか。シューゴさんは割とズケズケ言いますから危なっかしい。
ーー大丈夫です。出来る限りリラックスした状態で、素直な姿勢で語って欲しいので。どうしても載せにくい部分は編集します。
シューゴ:それなら、気軽に答えていこうかな。
ーーでは最初の質問ですが、『ヴァリアブルオリジナル』はこのスタジオ初のオリジナル作品という試み。そのきっかけはなんなのでしょうか。
シューゴ:そりゃあ、“アレ”だよ。その前にうちが携わってた『女子ダベ』(※1)のアニメが大コケしたからだよ。
※1…週刊ダイアリーにて連載されていた日常系の四コマ漫画(全4巻)。「女子がダベる(喋る)」ので略して『女子ダベ』。方言女子が出てくるわけではない。没個性な作風も手伝い、方言女子を期待していた層からガッカリ漫画の代表格として、しばしば挙げられることも。作中の「観賞用の花が、高嶺の花とは限らないだろ」というセリフは、本作をまるで知らない人にすら使われているほど有名。
マスダ:シューゴさん。それもなくはないですが、どちらかというとその時期の企画がそれしかなかったのと、予算の配分がおかしかったのが原因ですよ。
ーーえっ!? その話を詳しく。
フォン:えーとですね。これの前に制作していた『女子ダベ』はそこそこ好評だったんですけど、残念ながら興行的には赤字だったんです。巷では「壮大な雑談アニメ」、「無駄に高クオリティ」だってよく言われてます。
シューゴ:そりゃ、持ってきた企画それだけな上、予算もやたらと多いからな。しかも次の企画を持ってくる予定もないのでスケジュールはガバガバ。よほど無能でなければ、時間もお金も人手もありゃ良い物できるのは当たり前なんだよ。
マスダ:「作画の無駄遣い」だなんて言われているけど、スタジオ内でも「このシーンに、こんなに枚数使うの?」って皆が度々言ってたよ(笑)
シューゴ:ウチが1本作るのにかけている予算が平均○○○○○だってのに、あのアニメその数倍予算かけているからね。でも元のコンテンツがコンテンツだし、ジャンルがジャンルだから期待値低いし赤字確定。
マスダ:大赤字がほぼ確定だと分かっていながら、クオリティだけは上がっていく過程はツラかったですね。
フォン:企画が少ないのは、元請けのコンテンツにロクなものがなかったからだと上は言っていました。注目されている原作は他のところに持ってかれているか、既にアニメ化されていたりで。『女子ダベ』は競争もなくすごく安く入札できたので、その分の予算を割いたと言っていましたね。
シューゴ:だからって、その分の予算を一つのアニメに、しかも期待値の低いコンテンツに割くかね。まあ、フォンさんが予算決めたわけではないから、ここで言っても仕方ないけれども。
フォン:一つのアニメが多少コケても大丈夫なように、予算ほどほどにして企画数を増やすってのが定石なんですが、上がこれ一つに数本分の予算割こうと言い出したときは何かの冗談かと思いました。
マスダ:上はよっぽどこのアニメで黒字に出来る自信があったみたいですね。委員会、スポンサーとかもロクに募っていなかったようで。
シューゴ:それで赤字になったらこちらのせいにしてきて、次にアニメの話あっても企画くれない、もってこれない。出資してくれる所もないって、バカじゃないかと。
マスダ:ほんと上の方々には企画の確保と、予算の配分はちゃんと考えておいて欲しいですよね。その割を一番食うのはこちらなんですから。それが杜撰なせいで潰れたスタジオも数年前にありましたし。
ーーえ、あのスタジオ潰れたのって、『暴力団サンタ』が鳴かず飛ばずだったからだと思ってました。
マスダ:あ、どのスタジオか分かっちゃいます? まあ、アニメそのものの売り上げが多少悪くても、関連商品とかイベントなど、製作委員会によるリスクヘッジは用意してあるもんですから。ちょっとコケたくらいで潰れるようなら、それはアニメが悪いんじゃなくて経営が悪いんですよ。
フォン:まあこのスタジオも、そうなりかけてたんですけどね。特にヤバかった時期は、『女子ダベ』の制作も佳境なのに次の企画がまだ用意できていなかった頃です。
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