2022-06-06

【再追記あり】手嶋海嶺氏の知的不誠実さ

hesopennです。私はある誤解をしていたので、それを説明しておきます。私は指摘されるまでBhuller, Havnes, Leuven and Mogstad (2013)は指摘されて追記したのであり、最初は無かったことに気付いていませんでした。さすがに発表されてからこんな短時間批判修正が入っているとはちょっと想像していませんでした。申し訳ありません。この誤解をしていた旨を堂々とここに追記しておくべきでした。またそのような誤解を読者に与えていたのであれば(与えていたと思います申し訳ないです。

とはいえ、手嶋氏に論文を読み、それを説明する資格はない、という意見に変わりません。無査読論文を大々的に紹介し、それの結果に反するトップジャーナル掲載された論文提示されたにもかかわらず、あたかもそれが重要でないような(その論文が元の論文と食い違うことも述べず)扱いをすることは研究自分目的のために恣意的に歪めて紹介する行為からです。修正したといっても、最後に「実際のところ、社会統計からポルノ性犯罪を引き起こす!」と主張する研究者は、もうほぼ絶滅しているわ。」という文章は残っています。これは明らかに間違いであり、Bhuller et. al. (2013)の結果を(経済学研究の蓄積において明らかに重要である判断されているにも関わらず)無視する行為です。経済学という学問の正しい理解を妨げ、学問政治化する人間論文を扱う資格はないという意見に変わりはありません。

手嶋海嶺氏の 「性的表現性犯罪性的攻撃性」の関係最先端科学的知見に迫る~ (https://note.com/teshima_kairei/n/nb86567d83298) を読みました。この文章では私は手嶋氏は完全に知的誠実を欠いていることを説明します。手嶋氏は自分結論に合う論文のみを子細に説明し、それに反する論文を軽視しています

手嶋氏の論考では二つの論文を軸に性的表現性犯罪性的攻撃性の関係について考察をしており、前半はKendall (2007)の解説に紙幅を割く構成になっています。Kendall (2007)は学術的にそこまで重要論文なのでしょうか?手嶋氏も述べていますが、この論文はUnpublished Manuscriptです。いわゆる査読されていない論文で、2007年に発表されたものが最新のものです。経済学においてはまだ査読されていない論文をWorking Paperという体裁で発表することはよくありますが、2007年論文2022年まで査読されず残っているということは、一般的には著者の個人的事情アカデミアを辞めるなど)か、その論文問題があるということを表しています

このKendall (2007)を詳細に紹介した後、手嶋氏は手短に、その手法問題点が指摘されていることをBhuller, Havnes, Leuven and Mogstad (2013)を引用して述べています。この四人の著者からなる論文Review of Economics Studiesという、経済学のいわゆるTop 5の雑誌掲載された論文です。Unpublishedのまま2007年から更新されていないKendallの論文と、RESに掲載された2011年の彼らの論文、どちらがより信用に足るかと言われれば、事前情報なしでは経済学者の100人100人後者と述べるでしょう。では、なぜ手嶋氏はKendall (2007)の中身だけを扱って、Bhullerらの論文の内容を紹介しなかったのでしょうか?

それはBhuller, Havnes, Leuven and Mogstad (2013)がポルノの消費の増加によって性犯罪が増加したこと示唆する論文からです。この論文ではノルウェーにおいて、インターネットが普及した地域においてレイプ、およびその他の性犯罪が増加したことが述べられています。そしてAbstract最後では、”Our findings suggest that the direct effect on sex crime propensity is positive and non-negligible, possibly as a result of increased consumption of pornography.”、つまりインターネットによって性犯罪は増加したこと示唆され、おそらくそれはポルノ消費の増加によるものだろう、とまで述べられているわけです。

追記:ここではPossiblyという表現をおそらく、と訳すのは不正確でした。もしかすると、という表現の方が適切だったと思います。ただこのこと自体は私の主張を崩すものだとは思っていません。詳しくは(https://anond.hatelabo.jp/20220607234113)を見て頂ければ幸いです。

このように、手嶋氏はなぜかKendall (2007)という査読されずに15年も経っている論文を子細に扱いつつ、Bhuller, Havnes, Leuven and Mogstad (2013)という経済学トップジャーナル掲載された論文無視しています百歩譲ってKendall (2007)が重要論文で、説明する価値があるにしても、それと相反する結果が出たBhullerらの論文結論を述べず、手法問題点が…と曖昧引用するのは全く理解できないことです。これこそ手嶋氏が誘導したい結論合致する論文のみをとりあげる、知的誠実さを欠いた行いです。

追記:一番上の追記で述べたように、私は手嶋氏が初稿で両者の論文を把握していると誤解していました。実際には指摘を受けて追加した、ということのようです。しかし本稿の趣旨意見に変わりはありません。その点については一番上の追記を見て頂ければ幸いです。

本来であれば、なぜこの二つの論文の結果が食い違うのかを考察し、そのうえで自分の主張を説得力がある形で述べるべきです。手嶋氏はあたか科学的、中立的であるような風を装いながら、自分の意に沿う、決して評価が高いとは言えない論文のみを詳細に取り上げ、学術的に評価が高い論文を軽視(無視)しています。またそれにより、あたかもこのテーマについて学問的なコンセンサスがあるような、間違った印象を読者に与えていますこのような行為学問への冒涜であり、科学と対極に位置するものです。

手嶋氏には論文を読む、ましてやそれを基に文章を書く資格などありません。

論文リンクを張っておきます

Kendall (2007) : http://pirate.shu.edu/~rotthoku/Liberty/internet%20crime.pdf

Bhuller et. al. (2013) : https://doi.org/10.1093/restud/rdt013

追記

「手嶋氏は指摘を受けて修正した。だから誠実ではないか」という意見があります。これは大きな間違いです。Kendall (2007)は未査読のまま15年経った論文であり、Bhuller et. al. (2013)は査読を受け、一流の雑誌に載った論文です。この二つの論文信頼性には雲泥の差があります。この二つの論文を対等に扱うことすらおかしいのです。ましてや手嶋氏のようにKendall (2007)のみを子細に取り上げることなど、常識的研究倫理を持つ人間ならまずありえないことです。

そして修正された文章を見ても、そもそもBhuller et. al. (2013)がKendall (2007)と異なる結論を導き出していることは読み取れません。私は最初、おそらく多くの読者と同じように、Bhuller et. al. (2013)はより洗練された手法でKendall (2007)と同じ結論を導いたものだと理解していました。手嶋氏は明らかにBhuller et. al. (2013)の結果を隠し、間違った印象を読者に与えることに固執しています。この追記あくまお茶を濁し、読者の誤解を誘うように書かれています

繰り返しますが、手嶋氏が真に知的に誠実な行いをしたいのであれば、Bhullerらの論文吟味したうえで、それでも自分の主張が正しい、もしくはKendal (2007)のほうが説得的な論文であることを議論すべきです。そうでないなら、経済学という学問価値規範に沿って、未査読のKendall (2007)ではなく、Bhuller et. al. (2013)のほうを重点的に解説すべきでしょう。失礼ながら、手嶋氏は経済学の専門的な教育を受けていないようなので、これらの論文理解し、その信ぴょう性を比較する能力があるとは思えませんが…。

ちょっとかい論点(および追加的な説明)について追記しました。ごちゃごちゃしてすいません。

https://anond.hatelabo.jp/20220607234113

追伸:

はてなブックマークを見たところ、この問題点を指摘しているのは私だけのようです。研究者としての訓練を(修士しろ博士しろ)受けたものであれば、Unpublished Manuscriptを子細に取り上げ、トップジャーナル掲載された論文を軽視するやり方に一目で違和感を抱くはずだと思います。このような初歩的な問題点を無視することもまた、知的怠慢であり、知的誠実さの欠如でしょう。

記事への反応 -
  • 読んでみようと思ったら手嶋氏への反証となるべき論文 Bhuller et. al. (2013) の方、USD $52.00 払わないと本文読めないから無理っすね。概要だけならこんな感じらしい   インターネットの利...

    • Kendall (2007)のほうの要約も読んでいただけると分かりますが、こちらも同様に”推論”です。二つの論文はともにインターネットが性犯罪に与えた影響を見ており、そこからさらに追加的...

    • 大学図書館に行けば読めるだろ

    • 時期的に投稿中のものだと思われるワーキングペーパーならば無料公開されている。 https://www.cesifo.org/DocDL/cesifo1_wp3871.pdf

      • ナイスフォロー。少しずつ読み進めてる Overall, the estimates suggest that about 3.2 % of the total number of rapes and 2.5 % of the total number of sex crimes and child sex abuses that occurred between 2000 and 2008 would have been...

        • 疲れた。 DeepLも活用しながら頑張って英文の論文読んだんだけど、正確に読めてるのか自信はない。ただ、知的誠実さって意味では自分なりに最大誠意持って情報に当たってみたつもり...

          • てかそのペーパー 当のKendallがacknowledgementに入ってるやん

          • Kendall(2007)ものっけから不穏だ・・・ 概要で「これらの結果は、ポルノグラフィとレイプが代替物であることを示唆している」とか言ってるし、本当かよ。

  • Kendall (2007)を詳細に紹介した後、手嶋氏は手短に、その手法に問題点が指摘されていることをBhuller, Havnes, Leuven and Mogstad (2013)を引用して述べています。 この箇所、初稿にはなくて、批...

  • あくまで主題はインターネットと犯罪だね 理由?わかんね、ポルノじゃね?くらいのノリだね おそらく元増田もアブストにしか言及してないあたり本文や詳細な分析とその前提条件は読...

  • たしかに15年も前のプレプリントを持ち出すのは全く知的誠実さに欠けるな

  • Unpublished Manuscriptってお手盛り紀要論文や卒業論文にも劣るな 個人ブログ記事と同レベルやん しかも15年も前の記事 もし万が一そんなに画期的な内容と結果ならとっくに世界中で引用さ...

  • でも社会学のフェミニストの千田有紀先生は査読論文なんか必要ないって言ってるよね? 査読論文なんて重要じゃないって話だけど?

  • あんたさあ。手嶋海嶺氏に対してはUnpublished Manuscriptとしても論文を取り上げて見解を示すレベルの記事に対して知的不誠実とみなしてるけどさあ id:wuzuki 氏の AVでのガシマンもだけど...

    • ポルノを見てない男で実験できないし実例が複数存在する以上、丸ごと事実を無視するのは科学的態度とはいえないし、むしろ反証されてないことに重きを置くべきだと思うんだけど

      • 思わない

        • なんで?

          • 立証責任の転嫁だから これまでにパンを食べたことがない人間がいなくて(※)実験できないし食べてる人間による性犯罪の実例が複数存在する以上 パンが性犯罪を誘発する事実を丸...

    • ヘソペン基準だとウズキや社会学はその誠実さを問うような知的ステージに立ってないだろ テーブルの上とゴミ箱の中を一緒くたに論じるんじゃないよ これからはテーブルの上の話をし...

    • ブコメどうこうじゃないって書いてるように、hesopennはこの元増田の内容を言いたくてしょうがなくて 同じ話題でバズってる記事にのっかってコメントしただけで、wuzuki のブコメを特に...

    • hesopennさんの過去のブコメもっと見てみると面白いよ 表現の保護に批判的な人達には徹底して甘い一方で保護を訴える人達には滅茶苦茶厳しくて笑った まぁ本人は「興味の違いです」で...

    • 誠実さがどうこうって話題とhesopennさんが話題になってるので 表現問題とは関係ないけど自分がこの人の過去のブコメでウケた奴を引用してみる 数学の未解決問題に『1億2000万円』の懸...

    • wuzukiさんのきわめて個人的な感想のような意見に、 「おめーの主張に学術的根拠はあるんかぁ?われぇ」 とヤクザよろしく突っかかっていく連中に辟易する...。 はてブは学会なのか...

      • これ思った 柑橘類にはこういうルーツがある、みたいな記事に「甘夏よりはっさくのほうが美味しいと思うんだ〜」的な感想ブコメ書いてるようなものだと思って読んでたので、怒って...

    • 総括しような逃げてばっかりだけど

  • anond:20220606174313 anond:20220606232556 どうもBhuller et. al. (2013)の本文を読んでなくてAbstractにしか目を通してない臭いけど ここまで強い言葉を使って相手を非難するならせめて根拠となる論文...

  • この水準を国内社会学に求めるとほぼ全滅するので増田はよくぞ言ってくれた 今後全方位にこの水準の知的誠実さを求めていこう

  • インターネットが普及すると、なぜ性犯罪者が増えるのかって? そりゃ、被害者の私生活を探るのが容易になったり、犯罪者同士の情報交換が盛んになったり、 グーグルマップで犯行現...

  • 手嶋海嶺氏が、その学会を代表する、論文鑑定士みたいな立場で、 それぞれの論文の真偽を真偽するみたいなスタンスなら、そりゃ、増田の言う通りだろうけどさ。 ある学説を支持す...

  • まず、「知的誠実さ」の定義をしてください。

  • よくわからないから教えてほしいんだけど、性犯罪の研究の主戦場って経済学のジャーナルなの? タイトルにSex Crimeって入ってるから論文検索で見落とすことはないだろうけど。 あと、...

  • 知的不誠実さのくだりは理解できたけど、インターネットの普及はポルノ以外のものも多数普及させているからなあ。

  • 手嶋海嶺ブログについては、こんなアジビラよりこっちをよみなよ あるポルノ視聴が性犯罪を減らしていそうだ論文の計量分析の問題点 http://www.anlyznews.com/2022/06/blog-post.html

  • Bhuller et. al. (2013)はあくまでインターネットの普及と性犯罪の発生件数の相関を示している論文であって、 ポルノ消費と性犯罪の関係については根拠のない原著者の推測に過ぎない。 そ...

  • 誰かがインチキを言って、それに対して科学的な反論をすると、どこからともなくやってきて元凶のインチキを放置して、反論の方にのみ延々と厳密さや知的誠実さを求めてくる人たち...

  • 学術論文を書くときならそういうお作法もわかるけど、元の記事は学術論文じゃないよね。書いた人も学者じゃないだろうし。俺も自分で論文なり総説なり書くときには査読された論文...

    • 後から思い出したから、自分の増田に言及だけど、 知的に不誠実みたいなワードを出してしまうと、一番不誠実に思うのは、内容をアブストすら読まずにブコメで強い言葉で言い切っち...

  • 元増田です。一点、ちゃんと訂正(と追加的な説明)および指摘しておきたいことを話します。 インターネットと性犯罪なのか、ポルノグラフィと性犯罪なのか? いくらかコメントを...

    • ポルノ含むインターネットが性犯罪に及ぼす影響は否定できないけれども、とするとポルノのみ抜き出して規制することはできない、という結論でいいのかな。 規制するならインターネ...

      • ポルノを見ないヘテロ男性を集めて統計を取ってそうじゃないグループと比較すればいい

      • 結論としちゃ、因果推論まで含めたポルノと性犯罪の関係の研究は存在しない、としか言いようがないような たしかに手嶋氏は粗雑な主張だったと思うが、その一方で批判に耳を傾け、...

        • 因果推論まで含めたポルノと性犯罪の関係の研究は存在しない、としか言いようがない それが妥当な結論だろうね。 あとは性犯罪者による「AVに影響されてやりました」と自白したと...

          • 「知的誠実さ」という観点で言うなら あとは性犯罪者による「AVに影響されてやりました」と自白したという警察発表をどこまで因果関係として採用するか、かな。 これは言うまでも...

            • 引用されてる2論文ってそれは根拠にならないよ、ってところからスタートしてるわけで そうなんだねー。 よく影響ある派が印籠のように持ち出すこの記事なんかも、結局それが一線...

    • hesopennです。仰ることはその通りで、私は指摘されるまでBhuller, Havnes, Leuven and Mogstad (2013)は指摘されて追記したのであり、最初は無かったことに気付いていませんでした。さすがに発表さ...

      • Abstractしか読んでいない疑惑や自身のダブスタな態度など他増田やブコメによる都合の悪い指摘に無視または言い訳を続ける増田に果たして他人の知的誠実さを偉そうにジャッジする資格...

        • 手嶋氏は指摘を受けた部分について修正済みであり、修正後の内容も「良い影響を与えるなら悪い影響も与えるに決まってる」というキャプ翼論法がリテラシーの低い周回遅れの議論で...

  • https://anond.hatelabo.jp/20220606174313 論文に目を通したけど、概要でも本文でも参照しているデータはインターネットの普及率や利用率であって、ポルノ消費率がどういった影響をもたらして...

  • anond:20220606232556 前段の総説論文を踏まえた上で論じている内容であり、総説に沿わない主張をする側には沿った主張に比してより明確な根拠が求められるわけで、総説に沿わない推論と...

  • ドイツのブロードバンド普及は児童ポルノの不法所持を増やしたが、小児性犯罪は減らした論文 http://www.anlyznews.com/2022/06/blog-post_9.html Kendall (2007)に否定的なノルウェーの論文を大きく取...

  • 手嶋海嶺氏の不誠実さ(無査読の論文を大々的に紹介し、それの結果に反するトップジャーナルに掲載された論文を提示されたにもかかわらず無視)は増田でも指摘されてたでしょ https:/...

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