2024-09-23

レンタル彼女を知ったのは土曜日だった

好きな女性が居た。

彼女会社の同期で同い年。

彼女はいつも何故か、社食ご飯を食べる時には俺の隣に座る。別にそこで会話をしたりはないのに、彼女は毎度俺の隣に座るのだ。

まるでそこに座ることが決まっているかのように。

もしかして俺に気があるのかもしれない。そう思うのも自然なことだった。

から週末前の金曜日、俺は意を決して彼女に話しかけた。

仕事の後、食事に行きませんか?」

その一言を口に出した瞬間、彼女の顔がほんの一瞬、曇ったように見えた。

そして、「え?」と明らかに戸惑った声を出した後、しばらくの沈黙が続いた。

彼女は微かにため息をつき、「そういうのは…」と低い声で答えた。

彼女言葉は明確な拒絶だった。

その夜、俺は独りで立ち飲み屋に行き、ビールを飲み続けた。

飲んでも飲んでも心は晴れなかった。何かが違う。何かが壊れているような気がした。

ゲロを吐くまで飲んで、タクシーで家に帰り、気づいたらベッドに倒れ込んでいた。

土曜日の朝。昨日飲んだ酒のせいで頭が重く、気持ち悪さが残っていた。

時計を見ると、午前9時過ぎ。こんな時間に目が覚めるのは珍しいけど、まあ、仕方がない。

俺はベッドの脇に置いたスマートフォンを手に取った。寝ぼけた頭で、なんとなく画面を開くと、そこに見慣れないサイトが表示されていた。

レンタル彼女

俺は目を凝らしてその文字確認する。レンタル彼女を?なんだこれは、と最初は思った。

正直、昨晩のことはあまり覚えていない。酔っ払ってタクシーに乗り込み、家にたどり着いた後の記憶曖昧だった。

それでも「レンタル彼女」という言葉が頭の片隅に引っかかって離れなかった。

なんとなく、そのままそのサイトスクロールしてみた。どうやら、好きな時間、好きな場所で、指定した女性デートができるというサービスらしい。

まり簡単に言えば、金を払って女性を借りるということだ。

俺はしばらくそのままベッドに横たわりながら、レンタル彼女について考えていた。

まるで他人事のように、そのサービスを使う自分想像してみた。あり得ない話ではない。俺は少しずつ興味を持ち始めていた。そして結局、俺はそのままレンタル手続きを進めた。

予約は簡単だった。

サイトの案内に従って、自分の好みの女性を選び、時間場所指定する。

クレジットで支払いを済ませて、待ち合わせ場所に向かうだけ。なんて手軽なサービスだろうか、と感心してしまった。

午後、俺はレンタル彼女と待ち合わせをすることになった。

人混みの中、待ち合わせの場所で、俺は彼女を待った。

写真確認したが、実物がどうかなんてわからない。だから、俺は期待しないでおこうと思っていた。

その時、遠くから手を振る小さな姿が見えた。白いワンピースを着た若い女性が、にこやかにこちらに向かってくる。

驚くほど彼女写真そのままだった。いや、むしろ写真以上に、現実味を帯びた美しさがあった。

こんにちは!○○です。今日よろしくお願いします。」

彼女は明るい声で挨拶し、俺の目の前に立った。ほんの一瞬、俺は彼女の姿に圧倒された。

本物の彼女みたいに見えたからだ。だが、それも一瞬のこと。すぐに俺は自分を取り戻した。彼女レンタルされた存在だ。

レンタル。偽物の存在ジェネリック。それは変わらない事実だ。

よろしくお願いします。」

俺も軽く挨拶を返し、二人で歩き始めた。彼女不思議の国のアリスのような、少しお嬢様風の格好をしていた。白いワンピースに、レースリボンがついた帽子

まるで映画の中から出てきたような、クラシカルな装いだった。

それが彼女の選んだスタイルなのか、あるいは客に合わせたサービスの一環なのかはわからないが、少なくとも目を引く格好だった。

俺たちは映画館に行った。

計画曖昧だが、事前に考えていた。並んで座り、観た映画の内容は正直覚えていない。

彼女は途中で俺の手を握ってきた。そのことで俺の頭はいっぱいだった。

映画が終わって外に出ると、彼女自然と俺の腕に身を寄せ、軽く抱きつくようにした。

それがサービスの一環だということは分かっていたが、そんなことはどうでもよくなっていた。

周囲の視線を感じる。それが妙に心地よかった。まるで俺が誰かに認められているような感覚がした。

それから近くの喫茶店で軽く食事をした。彼女は可愛らしく注文を取り、上品に食べていた。

俺は彼女を見ながら、内心で「これは俺の彼女だ」と自分に言い聞かせた。本物じゃないと分かっていても、少しの間だけでもそう思いたかったんだ。

そして、その幻想の中で俺は少しだけ満たされていた。

その後、駅で別れの時が来た。彼女最後に「今日は楽しかったです。また呼んでくださいね」と微笑んだ。

その笑顔が本物かどうかはわからない。でも、俺は軽く手を振り返してその場を去った。

家に帰ると、まずは明細を確認した。

レンタル彼女に支払った金額を見て、俺はふと考えた。

その金があれば、○○で何回課金できるだろうか。自然ガチャを引く回数が頭をよぎる。

「もうレンタル彼女を使うことはないだろう」と俺は思った。

翌週、俺は彼女レンタルした。

週末が来るたび、俺はレンタル彼女を利用するようになっていった。

あの日から三週間が経った頃、会社社食彼女が再び俺の隣に座るようになった。

彼女からしかけることはない。もちろん俺から彼女に話しかけてくることも。

金曜日の昼、彼女が突然、俺に話しかけてきた。

今日仕事の後で一緒に食事に行きませんか?」

彼女言葉に驚き、俺は一瞬、答えをためらった。

気づくと口から明日、行きましょう」と自然に出ていた。待ち合わせは駅で。

彼女笑顔で頷いた。

次の日、俺はレンタル彼女を伴って駅に向かった。

事前にレンタル彼女には話しておいた。今日友達が一緒だと。

彼女は了承した。駅前で例の彼女が俺たちを待っていた。

俺が手を振りながら歩み寄ると、彼女は驚いた顔をした。だがすぐに表情を戻し、その子は?と聞く。

俺はジェネリックを「彼女」と呼んだ。

ジェネリックは僕の腕に抱き着く。

彼女は、それを見て目を逸らした。

俺たちは三人で食事に行った。

レストランでの食事特に気まずいわけでもなかった。

ジェネリックは愛想よく振る舞い、彼女も終始笑顔だった。

俺の心には一種の満足感があった。奇妙な満足感だった。

皆が笑顔で、幸せ空間に感じられた。

俺も、彼女も、ジェネリックも笑っていた。

俺はただ、その場にいた自分に満足していたのだと思う。

家に帰ると、部屋は当然のように静かだった。

レンタル彼女は消え、俺は一人になっていた。

それでも何か満たされた気分で、妙に清々しかった。

  • え?会話もしてないのにいきなり食事誘うか?何の話するの?え?

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