「理解に苦しむよ。どうしてこの機械よりも、自分たちの方が罪の重さを正しく推し量れると思えるんだ」
その溜め息は呆れからくるものじゃなく、どちらかというと諦めに近いものだったように思う。
「やっぱりな。この機械が正しく罪と罰を推し量れることが、全面的に正しいことだって思ってる。それが問題を本質的に解決できる魔法の粉だと信じているわけだ」
「なるほどね……」
「あ、何が?」
「マスダの兄ちゃんにとって、罪罰メーターが実際にちゃんと計測できているかどうかは重要なことじゃなかったんだ。罪罰メーターに対する考え方を通じて、ガイドの無知や無理解、傲慢さを露わにしたかったんだよ」
あー、それなら俺も分かる。
そういう人間を家から追い出すって形の方が、後腐れがなくなるもんな。
そしてミミセンの予想が正解であることは、その後すぐに分かった。
「では、お気をつけてお帰りください」
ガイドは危険を察知して咄嗟にステルス機能を使ったけど、これは悪手だった。
迷いなく振り下ろされた木刀を、ガイドはほぼ無防備な状態で肩から喰らった。
「い、いきなり何するんだよ」
「お前はまるで分かっていなかったようだが、俺にとっては全然“いきなり”じゃないんだよ。むしろ待ってやったほうだ」
スーツの耐久性のおかげか、ガイドはそこまで痛そうなそぶりは見せない。
だけど、それがかえって兄貴が手加減しなくていい理由を与えた。
ガイドは様々なアイテムを使ってこの場を乗り切ろうとするが、それよりも早く兄貴が攻撃するため何もできない。
「生憎、この家では治外法権なんだよ。相手が身元不明の自称未来人なら尚更な」
「どういうこと?」
「今この場においては裁くのは俺で、裁かれるのはあいつだってことだ。それは俺に罪があろうとなかろうと関係ない」
完全にキレてんな。
にじり寄る兄貴に恐怖を覚えたガイドは、たまらずその場から逃げ出す。
「他をあたるんだな。まあ、その罪罰メーターには致命的な“欠陥”があるから、結果は同じだろうがな」
その後もガイドは色んな人に罪罰メーターを使って見せたけど、兄貴の言うとおり誰にも信じてもらえなかった。
「ええ? これで罪が帳消しなんて納得いかない。もっと罰を与えろよ」
「ちょ、ちょっと待ってよ。むしろやりすぎだよ。何でここまでされないといけないんだ」
ある人はそれでは足りないといい、ある人はそれではやりすぎだと意見がバラバラ。
「何で今ので自分の罪メーターが増えるんだよ。悪いのはあいつじゃないか」
結局、ガイドのアイテムがインチキだとして、誰も相手にしなかった。
「なぜだ、なぜ誰も『罪罰メーター』の力を信じない……」
何となく感じていたことだけど、この頃になると俺たちも罪罰メーターに“欠陥”に気づいていた。
ガイドはまだ気づいていないようだけど。
「仮にそのアイテムが本物だとしても、結果は同じだ」
ガイドにそれを伝えたのは、意外にもシロクロだった。
いつものシロクロは言動がユルいけど、たまにやたらと喋り方がガラリと変わることがある。
どういうきっかけでああなるのか、あれが本来のシロクロなのかは分からない。
考えるだけ無駄なので、俺たちは持病の発作みたいなものだと思っている。
「マスダのお兄さんも言っていたけど、一体どういうこと?」
「因果に人が繋がれているならば、罪と罰についての妥当性を判断するのもまた人なのだ。その機械が人の気持ちを理解できない以上、いくら正確に検出できてもポンコツなのだよ」
そう、罪罰メーターの致命的な欠陥。
それは計測が正確であるかどうかを判断できる人間が、ほぼ存在しないってことだ。
「理解できないよ。どうしてこの時代の人間たちは、自分の感情を優先させて是非を語ろうとするんだ。そんなので正しく裁けるわけがない」
「正しく裁けるかってのは、必ずしも重要な事じゃない。時には他の事を優先することもある。そして、そのメーターにそんな判断は出来ないだろう」
シロクロの言うことをガイドは理解できないようだけど、結果が何よりも物語っている。
つまり機械が裁くにしろ、人が裁くにしろ、納得できない結果になるってことなんだろうな。
この時点で俺たちは、ガイドが家から追い出される未来を予見した。 キトゥンもそれを察したのか、兄貴の膝上からそそくさと降りる。 だけど、兄貴は木刀をまだ手に取らない。 「...
こうしてガイドによる第○回、未来のプレゼンが始まった。 ガイドが罪罰メーターの説明をしている間、兄貴は何も言わず話を聞いている。 時おり何かを言いたそうに口がもごもごし...
こうしてガイドは罪罰メーターを片手に、当初の目的である協力者探しを始めた。 なぜか俺たちもついてくるよう頼まれた。 暇なので、断る理由はないけど。 「キミたち、邪魔だけ...
「シロクロ、マスダくんを殴ってみて」 「あぁん? なして?」 さすがのシロクロも困惑している。 というか、ガイド以外も皆そうだ。 たぶん罪罰メーターの効果を実証したいんだ...
そう言って、ガイドが俺たちにアイテムを見せた。 「ええー? それが未来のアイテム?」 見た目はスマホに似ていて、あまり未知の未来っぽさがない。 俺たちはこれ見よがしにガ...
俺たちの住む街の外れにある、通称「貧困街」。 その隣には、「低所得者エリア」と呼ばれている地域がある。 これといった名所がなく、交通は不便。 その割に電車や飛行機が近く...