この時点で俺たちは、ガイドが家から追い出される未来を予見した。
キトゥンもそれを察したのか、兄貴の膝上からそそくさと降りる。
「ん? なにかな?」
「さっき、罰は違う手段でもいいと言っていたが、それは間接的であっても計算されるってことだよな。じゃあ殴られた当事者以外の第三者が殴った場合、それは罰として計算されるのか?」
「状況や性質によるね。その第三者が当事者と何の縁もなく、別のシチュエーションで殴った場合、それは本件とは関係ない。ただ、一見すると関係がないようでも、因果的に関係があった場合ちゃんと計算されるんだ」
「んー? じゃあ個人的な、第三者による私刑行為はOKってことか? それって司法国家的にどうなんだ」
どうやら兄貴は質問にかこつけて、ダメ出しをするつもりのようだ。
ガイドの持ってきた罪罰メーターを扱き下ろしてから、お帰りいただくつもりらしい。
ガイドが兄貴を不機嫌にさせたせいで、より容赦がなくなってる気がする。
キレた兄貴の怖さを知っている俺たちは間に入ることができず、ただその質疑応答を見ているしかなかった。
「もちろん、そういった私刑を行った人物は独善的な行為だとして罪メーターが別途貯まるけど、対象者への罰としても成立はするね」
「成立しちまうのかよ」
俺たちでは上手く言葉にできなかった罪罰メーターの欠点を、兄貴はどんどん指摘していく。
ガイドは坦々と返していくけど、その答えは何か“大事なもの”を削ぎ落としている気がした。
「他にも気になるところがあるんだが、そういった罰は合算なのか?」
「そりゃそうだよ。もし被害者から同じくらい殴られて、その上で部外者にまで殴られたら、罰としては重くなっちゃう」
「ということは、被害者が加害者に何の罰も与えず、部外者の罰だけでメーターが減るってこともあるのか。その場合、被害者は納得するのか?」
「当事者が納得するかどうかと、罪に対しての罰が適切かどうかは別の話だろ。罪と罰において重要なのは“意図”ではなく“行動”なんだから。当事者が『殴った罰として、あいつを死刑にしてくれ。じゃなきゃ納得しない』って言われても、それは無茶な話になるだろう」
そうしたやり取りに飽きてきたのか、ミミセンが俺に耳打ちをする。
キレ気味とはいえ、確かに今回の兄貴はちょっとしつこい気がする。
結局この状況は、最終的に兄貴がガイドを追い出したら、それでおしまいだ。
それを先送りにして、まだ問い詰める理由があるのだろうか。
こうしてガイドによる第○回、未来のプレゼンが始まった。 ガイドが罪罰メーターの説明をしている間、兄貴は何も言わず話を聞いている。 時おり何かを言いたそうに口がもごもごし...
こうしてガイドは罪罰メーターを片手に、当初の目的である協力者探しを始めた。 なぜか俺たちもついてくるよう頼まれた。 暇なので、断る理由はないけど。 「キミたち、邪魔だけ...
「シロクロ、マスダくんを殴ってみて」 「あぁん? なして?」 さすがのシロクロも困惑している。 というか、ガイド以外も皆そうだ。 たぶん罪罰メーターの効果を実証したいんだ...
そう言って、ガイドが俺たちにアイテムを見せた。 「ええー? それが未来のアイテム?」 見た目はスマホに似ていて、あまり未知の未来っぽさがない。 俺たちはこれ見よがしにガ...
俺たちの住む街の外れにある、通称「貧困街」。 その隣には、「低所得者エリア」と呼ばれている地域がある。 これといった名所がなく、交通は不便。 その割に電車や飛行機が近く...
≪ 前 「理解に苦しむよ。どうしてこの機械よりも、自分たちの方が罪の重さを正しく推し量れると思えるんだ」 ガイドのその言葉に、兄貴は深い溜め息を吐いた。 その溜め息は呆れ...