「シロクロ、マスダくんを殴ってみて」
「あぁん? なして?」
さすがのシロクロも困惑している。
というか、ガイド以外も皆そうだ。
たぶん罪罰メーターの効果を実証したいんだろうけど人選がおかしい。
この中で一番力のあるシロクロにやらせるとか、ふざけてんのか。
やられる相手にしても、俺じゃなくてガイド自身がやればいいだろ。
「……いいよ、シロクロ。やってくれ」
だけど、ここでグダグダと文句を言うのもカッコ悪い気がして、俺は渋々とシロクロに促した。
「オーケー! 歯ァ食いしばれ!」
そう言ってシロクロは、間を置かずに掌底を浴びせてきた。
これでは問答無用と大して変わらない。
声すら上げることができず俺は盛大に吹っ飛び、壁に激突した。
「マ、マスダ!?」
「ちょっと、シロクロ! 確かにマスダは了承したけど、全力でやる必要はないでしょ!」
「正直スマンかった。半分くらいの力でやったつもりなんだが」
もしも「全力でこい」で言ってたら、俺は死んでたかもな。
「とはいえ、計測はちゃんと出来ているよ。ほら、シロクロのメーターが貯まってる」
まだ意識が朦朧としているので良く見えないが、粛々と話を進めるガイドに対して俺の怒りメーターが確実に貯まっていくのだけは分かった。
「うおおおお、俺は罪人だー……」
罪罰メーターを見てシロクロがうな垂れている。
罪は罪ってことなんだろうけど。
「で、この罪メーターが貯まった人間に、相応の罰を与えれば減っていくんだ」
「げほっ……“相応の罰”って?」
「うーん、じゃあ今回は分かりやすく行こう。マスダくんがシロクロを殴ればいい。自分がやられたのと同じ方法、威力で」
確かに、同じ手段でやり返せばチャラっていうのは分かりやすいな。
「だけど同じ威力ってなると、難しいぞ」
「ああ、一発でプラマイゼロにする必要はないよ。個別に計算してくれるから」
なるほど、合計でもいいってわけね。
「じゃあ、行くぞ。シロクロ」
俺はシロクロに掌底の連打を浴びせる。
さっきシロクロにやられた場所を狙った。
数発打ち込んだあたりで、ガイドが止めてきた。
だけどシロクロは平然としている。
「ええ? 本当にこれでチャラなのか?」
俺みたいに吹っ飛んだり、壁に激突したり、息が数秒間できなくなったわけでもないぞ。
「罪ってのは一面的なものではないからね。シロクロはボクらに『やれ』と言われたからやったわけで、それが罪メーターの計算に含まれているんだ」
なるほど、意外と色々計算してるんだなあ。
なんだか納得いかないけど。
ミミセンが何かに気づいたようだ。
「そう、ボクもシロクロに暴力をするよう煽ったので、罪メーターが貯まっている」
メーターを見てみると、シロクロとは別の項目にも貯まっているのが確認できる。
そういうのも測ってくれるのか。
「案外ちゃんとしているんだな」
「そうだよ、すごいアイテムだぶふェっ!」
俺は罪罰メーターの効果に感心しながら、ガイドの頬を引っ叩く。
「いてて……あ、まだ罪メーターが残ってるね。さっきの6割くらいの力で、もう一回叩いて」
そう言って、ガイドが俺たちにアイテムを見せた。 「ええー? それが未来のアイテム?」 見た目はスマホに似ていて、あまり未知の未来っぽさがない。 俺たちはこれ見よがしにガ...
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