BECKはその昔薦められてブックオフで全巻買ったのだが、結局全部読んでもイマイチに思った。
ぼざろのおかげでバンドモノを読む下地が整った気がしたので読み直した。
答が出た。
BECKは「日本生まれのバンドがロックの本場で勝利をするまでの物語」なのだ。
それはまるで「とあるスポーツの日本代表が世界大会を勝ち進むまでの物語」のようであった。
個々のキャラクターにはそれぞれの背景があるが、それらは「最強ロックバンド誕生のために必要なパーツ」としてこの世界に生み出され、それがリアリティを失わない程度に自由に走り回った結果でしかないように映る。
最強の日本代表チーム、それに相応しい者達、主人公の「自分の才能にまだ気づいていない強い芯を持った普通の人」という設定さえも、「日本人が望む日本代表」の物語を注ぐための器のように思える。
この物語の目的は結局の所「日本生まれの日本人によるチームが、世界で通用する姿を描く」という作品なんだ。
悲しいけれど、コユキという少年自身の人生が描く軌跡は、そのための手段へと埋没していると言って良い。
恋さえも試練さえも音楽に縛り付け音楽表現を身につけるための過程だ。
よくスポーツ選手に気持ちの悪い評論家が「恋とかしたら人間として幅が広がって成長するよ♡」みたいな馬鹿げたコメントを投げかけるが、コユキの恋愛もまさにそういったものに見えてならない。
BECKの世界には分かりやすい悪役が登場し、分かりやすい仲間たちがいて、分かりやすい物語があり、分かりやすい勝利がある。
本来は複雑怪奇なそれぞれのジグザグ道を進むはずのバンドマンの物語を、適度な紆余曲折を織り交ぜつつのどストレートな栄光までの一本道に舗装し直したのがBECKだ。
紛れもなくBECKは名作だ。
序盤こそややとっつきにくいし、若干冗長なパートもあるが全体としてはとにかく目先のニンジンに向かって突っ走っていくだけの物語で、誰もが読み解いて味わえる。
音楽物によくある小難しい知識論や、歴史的背景への理解を強要するかのような態度もない。
万人向けに仕上げられた適度に壮大な物語だ。
ぼざろは違う。
ぼざろの主体はキャラクターであり、それぞれの自己実現のための手段として結成されたバンドの物語だ。
何者でもなく本人たちであり、挑むべき敵や超えるべき明確な壁があるわけでもない。
自己実現のために今あるバンドの形を守り抜くという決意によって結びついてるが、それは物語の意思というよりも彼女たちの意思、というよりも彼女たちにそのような決意をさせることこそがこの物語の意思なのである。
バンドとして成長していく姿は物語の過程や手段であり、それによって描きたいのは勝利や栄光ではなくてそれぞれの願いなのだ。
ぼざろの本質は音楽ではなくキャラクター、成功ではなく交流だということが、BECKとの比較でよくわかった。
後藤ひとりに植え付けられたギターヒーローというマクガフィンは、結束バンドを高みへと誘うだけの装置ではなく、急激に登り続ける高みでそれぞれの心の中に嵐を起こす機能を持っている。
分かりやすい誰かの陰謀によって結束に危機が訪れるのではなく、それぞれの心が持つ自由意志の中で育った不安と行き違いが内側から世界を破壊していく。
敵や目的が世界の外側に存在するサクセスストーリーの世界ではなく、それぞれの心の内側を主戦場とするヒューマンドラマがぼざろの本体だ。
ぼっちちゃんがイカれているから、リョウがヤベーから、虹夏が天使だから、郁代は……コイツが多分一番ヤベーから、読み手がその行く末を追いかけたくなる。
作品のためにキャラクターがいるのではなく、キャラクターのために作品がいる、バンドはシチュエーション・コメディの題材のようなものであり、大事なのはこの4人を中心とした数々のイカれたメンバーが集まっていることだ。
BECKはそうではなくて、物語のためにキャラクターがいて、バンドとして勝利するのだからバンドでなければ絶対に駄目だったのだ。
この違いがやっと分かった。
漫画って難しいな。
どう読めば良いのか誰も教えてくれないんだぜ?
ぼざろって流行ってるらしいけどどうせ萌え豚御用達声優ブヒブヒアニメだろと敬遠してた。 BECKと比較するくらいにはまともにストーリーも面白いの?
作者の考える「正解」に登場人物が奉仕している作品(マンガ、小説、映画)あるよな…