2021-07-23

祭りと居場所の話

ごく個人的な事だけれど、残しておきたかったのでここに書く。自分の今も心にわだかまる、あるささやかな思い出の話だ。

地元の町では毎年、みどりの日(今でいう昭和の日)にお祭りがある。

朝早くから山車(だんじり、という。これで大体出身地は絞り込めるかな)を、町内会ごとに、男たちが威勢の良い掛け声と共に担ぎあげる。だんじりは、筋骨隆々大人男性が数十人でようやく持ち上げられるほど重く、立派だ。

だんじりの中心は幕で覆われており、中には大きな太鼓ひとつ。次代の町内を担う小学生男子たちが、太鼓を交代で延々と叩き続けリズムを作る。

それぞれがそれぞれのルートで出発しては町を練り歩き、八幡神社に昼前くらいに集まる。

それから神社で何やら神事らしき事をおこなったのち、昼過ぎくらい出発しては、どの町内会だんじりも、夕日がさすくらいまでに再び担ぎ出して帰る。

帰ったら、町内会館で労いの宴会だ。飲めや食えやの大騒ぎ。

そして、次の日からまた何事もなく日常に戻っていく。

さて、僕の話だ。

僕はその町で、共働きの両親の家庭に生まれた。

僕ら一家町内会①に、祖父母が少し遠い町内会②に暮していた。

両親は、仕事から帰ってくるまでの間の僕の世話面倒を祖父母に任せていたので、

保育園の迎えは祖母だったし、放課後祖父母の家…つまり町内会②で過ごしていた。

両親は仕事が終わると迎えに来てくれ、夜は町内会①で暮らす。そんな日々をずっと送ってきた。

友だちも、まあそれなりにいた。たいていは子ども自由時間である放課後に過ごす町内会②での繋がりで。

僕は自分の居場所をずっとはかりかねていた。

なにせ、僕は祭りの日にだんじりに一度も乗ることができなかったからだ。

町内会①も②にも僕が乗ることはなかった。

祭りが近づくと町内会の子らが太鼓練習に当たり前のように行く中、

とても寂しく切ない気持ちを抱えて、1人で遊んでいたように思う。

から思うと、僕が太鼓に乗れなかった理由は定かではない。

覚えてないが、乗りたくないと言ったのか。親が町内会との折り合いが悪かったのか、はたまた本当に地域の慣習上疎外されるべき存在だったのか(なんらかの伝統的な基準を満たさなかったのか、次男だったからなのか)、分からない。

ただ当時の僕は、「自分町内会①と②のどっちつかずだから、どっちにも認めてもらえないのだ」と思っていた。

両親も、まともに祭りに参加していなかった。住んでいる町内会①の祭りには、ろくに出ていなかったように思う。

一方で、祖父はみんなが担ぐだんじりの上に乗るという栄誉(と思われる)にあずかった事もあるくらい、祭りには毎年参加していた。その写真が、額縁に今も飾られている。

僕はそれを見ながら、誇らしい気持ちと共に、寂しく切ない気持ちになる。

一度だけ、祭りの日に友だちについて行って、違う町内会の休憩しているだんじり太鼓をこっそり叩いた事がある。どうしても叩いてみたかったんだ。

みんなは練習しているから、カッコよく慣れた手つきで叩くし、どこでどんな風に叩いたら良いかも分かっているなか、僕だけがみっともなく不恰好太鼓を叩いている。

その居心地の悪さは今でも覚えている。

自分町内会でもない太鼓で、練習してもない腕で、太鼓を叩いているグロテスクさへの嫌悪感

自分が欲しかったのは太鼓を叩く事ではなく、当たり前のように太鼓を叩くことを求められ、それを、当たり前に思う帰属意識だったのだとわかった失望

幼かったので言葉にはできなかったけれど、「これは違うんだ」と、だんじりから降りてからジリジリと、違和感を感じていた。

……

その後、ありがたい事にお勉強ができた僕は、東京の困難な大学合格し、就職

10年ちかくキャリアを積んで、いま長年の夢を叶え、働きたかった会社で働いている。

東京暮らしは心地よかった、だって、ここでは本当に他所者なんだから

名実ともに故郷であるはずのふるさとに、疎外感を感じながら居ることの方がつらいのだ。

………

こうして僕は、ついぞ大人になる過程の中で故郷という居場所を得ることはなかった。

いや、地元は好きだよ?でも僕の帰る場所じゃない。そんな思いが根強くある。

でもぼんやり思う…もし僕があの頃、本当の意味太鼓を叩いていたなら、人生は変わっていただろうか?

などと想像してしまう。

いや、きっと何も変わらないのだろうけど。

でも老後の暮らし選択肢故郷がないのは、きっとこのせいだぜ。

おわり。

オチ結論も教訓もない。

ただ1人、こんな淋しさを抱えて生きている僕という人間がいる、と自分悲劇的に酔いながら書いただけの話だ。

何の薬にもならないだろう。

誰か知らないけど、読んでくれてありがとう

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