最近、頭が痛くってさ、早退したり、休日は家でずっとベッドの中で寝ていた。
せいぜい、休みの日に家を出るっていったら、歩いて徒歩5分のコンビニで弁当を買うぐらい。いつもおにぎりとサラダを買っている。あわせて300円にもならない食事。そんなことはどうでもいいか。
でさ、流石にずっと寝てるから、することが無くて困ってんの。まあ、最近はテレビを点けてオリンピックをダラダラ見てるぐらいかな。オリンピックは良いよな。一日中ずっとやってるし。CMも無いから。せいぜい、他の国同士の団体の競技をもう少し見たいって思うぐらい。
それがここ数週間の俺の休日。
ガンガン痛い頭の痛みやときどき現れるふわふわした気分を抑えながら、データ入力をするのが俺の仕事だ。単純作業だけど、正確性が求められるのでこの状態だとかなりキツイ。ぶっちゃけ俺じゃなくても誰でもできる仕事だ。だから、俺が不能だと分かったら、さっさとクビにするだろうな。会社の中で死んだりでもしたらメーワクだから。
こんな状態が毎日続いていたんだが、どうやら、俺はいわゆる残留思念に取り憑かれているらしい。
説明は難しいが、こう、急に分かった感じがするんだ。パズルのピースが嵌ったような気分。もしくは数学的概念が理解できたような。
昨日、快挙と言っていいと思うのだが、残留思念と対話することに成功した。対話というより通信のほうがいいかもしれない。よくマンガとかで出てくる「こいつ、直接脳内に……!」みたいなアレ。あれは読者が日本語ベースで理解しようとするから、日本語で書かれているけど、実際に言語でやり取りはしていない。ぼんやりと分かるようになるぐらい。残留思念は無口だ。これは俺の場合だけどな。
その残留思念と通信してわかったのだが、俺に残留思念を送りつけたのが、仕事場所で俺の隣りにいる横田らしいんだ。
横田は勤勉だし、性格も良いから、頭が痛いとぼやく俺のことをいつも心配してくれる。もちろん、他の同僚たちにも気を配る優等生だ。仕事もよくできるので周りの評価も高い。
そんな横田がなぜ、と思ったのが最初の感想だ。そこで、横田が残留思念を送ってきたのか理由を通信した。
しかし、残留思念にも分からなかった。いくら残留思念でも、創造主の頭までは侵入できないのかもしれない。
仕方が無いので、今日出勤してきたときに俺の残留思念の一部を横田に送りつけてみた。ちょっと横田の脳に触れる感じ。
すると、面白いことが起こった。
残留思念の一部が横田の脳に攻撃すると、そこからどんどん別の残留思念が出てくるんだ。耳、鼻や口とか穴の中から出てくるんだ。というか、俺は残留思念を感知できるようになった。
俺の会社では毎日朝礼があって、部長の朝の挨拶の間でもずっと横田は残留思念を垂れ流しにしていた。心なしか横田の影が薄くなっているような。でも、みんな横田の異変には気づいていない。
おそるおそる、俺は横田に気分が悪そうに見えるが大丈夫かと尋ねてみた。
横田は一目俺を睨んだだけでなにも言わなかった。誰が残留思念を送ってきたのか分かったのかもしれない。
朝礼が終わると、横田はすぐにトイレに向かった。俺もこっそりついていった。
トイレの個室で横田は小さくうめき声を上げた後に、声は止んでしまった。
その後、俺は横田を見ていない。
横田の隣の席の横横田と話していると、ある核心的事実がわかった。
なぜそれがわかったって?
いったん、残留思念に取り憑かれると空気中を漂う他の残留思念が体に集まりやすくなるようだ。体の許容量を超える残留思念が溜まるとそいつは消滅する。
横横田もすでに許容量の半分ぐらいがすでに侵されている。
ふつうは、残留思念が集まるといっても1思念1ヶ月ぐらいのペースぐらいが平均みたいだが、横田は異常なスピードで残留思念が集まってしまったと教えてくれた。きっと、社内外問わず広い交流をしていたからに違いない。
残留思念が多すぎるとふとした拍子に残留思念が漏れ出てしまうことがあるらしい。それが俺の中に入ってきてしまったというのが横横田の仮説だ。
では、どうすれば残留思念を追い出せるのかと聞いてみたが、それがわからないと返ってきただけだった。一方的に溜まっていくだけで今のところ防ぎようがない。
今は1思念だけなのでまだまだ許容量までには十分余裕がある。