2018-02-01

仮想通貨はエア通貨だった:イノベーション無罪論無理筋だと思う

昨今の事案を受けて、「仮想通貨をつぶすな」という主張が良く見られる。

多くの場合法律の目がとどかない博打をこれからも続けさせろ、ボロ儲けの手段を維持しろ、という主張としか思えないが、「日本におけるイノベーションをつぶすな」という理性(?)からの主張も多い。

よくある主張は次のような形をとる。

今起きている事案は、あくま仮想通貨取引所問題であって、仮想通貨のもの問題ではない。特に中央管理性の理念ブロックチェーン技術価値が棄損されたわけではない。

反論1

まず「仮想通貨ビットコイン」ではない。

NEMやTetherはビットコインとは別の仮想通貨である

ビットコイン創始者とされるサトシ・ナカモト論文で語った高尚な理念やそこで提示された優れた不正防止手法をもってそれ以外の仮想通貨まで擁護しようとする向きがあるが、極めて不自然に感じる。

あくま仮想通貨ごとに個別で論ずるべきである

例えばリップルは非中央集権通貨であるし、ブロックチェーン仮想通貨ごとに別物として存在しうる。これらの観点から自らの社会的存在意義説明できていない仮想通貨はいくらでもある。本当にイノベーションがそこにあるか疑わしいものもある。

反論2

取引所と当該の仮想通貨の元締めが同一だったり、共通である場合、「取引所側の問題であって仮想通貨側の問題ではない」という主張は無理がある。

設計は正しかったが、実装がまずかった」とし、取引所にのみ責を帰することができるのは、両者のメンバーが完全に分離している場合のみである

Tetherの場合は、特定取引所実質的にすべてを握っている。

Nem財団重要メンバー取引所Aに籍を置いていると仮定して、そしてその取引所Aの実装がまずく事故が発生した場合財団は善であり、あくま取引所Aの過失という説明は、詳細な事情を勘案することができる内部の人間のみに通用する論理であって、詳細が分からない外部の人間にとっては通用しない。

仮想通貨技術面では追跡可能で透明化されているかもしれないが、関係者による人為的判断が入りうる以上、技術面の透明性のみを主張しても一般人間には説得力を欠く。

反論

中央集権管理手法ブロックチェーン技術仮想通貨専用のものではないので、これを機に通貨以外での適用をという主張でもよいと思われる。ことさら仮想通貨のみがイノベーション担い手というわけではない。

雑感

ここではあくまでよく見られる「イノベーションテクノロジー無罪論」に焦点をしぼった。

本当に仮想通貨必要なのか、法定通貨デジタル化ではだめなのか、その辺の議論も見てみたい。

熱くなって擁護論を唱えている人は初期の理想技術論に「天才って実際にいるんだ」と感激し、その後の幻滅を見た自分のような人でなければ、その幻滅を見なかったことにして信仰を持ち続けたい人か、最近この世界を知って誰かのポジショントークをそのまま受け入れている人だろう。

なお、テクノロジー問題とは別に、先行の類似取引システムでの規律に相当するものか、あるいはそれを代替するものがいまの仮想通貨取引所存在しないことについては議論があるべきだろう。

仮に仮想通貨世界の内部では問題がないとしても、現実世界法定通貨世界)との境界をまたいだところで問題が起きる以上、両方の世界所属する取引所に対しては、現実世界において先行する各種金融取引システム規律の準用を求めるべきだった。

日本取引所から韓国取引所に送金し、そこで現金化し、金貨を購入して日本に持ち込むというマネーロンダリングが行われるに至っては、それすらも無力だったのだとは思うし、後からなら、このように何とでも言えるが、カネにまつわることがらでは性善説採用ほど無力なものはないと、技術者のはしくれとして痛感した。

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