社会人1年目、ホント当たり前のことなんだろうけど毎日失敗、怒られ、学生の時に思い描いてた自分の仕事像とかけ離れて辛い日々。
予定にない外食は極力控えてたけど、出張先でコンビニに晩飯を買いに行く途中、串カツ田中の誘惑に負けて1人でイン。
カウンターに座って少し経った後、ファーストドリンクを取りに来た17〜20歳ぐらい?の女の子がやけに元気だった。一生懸命覚えた年確と、ドリンクの割引チケット説明の手順を拙いながらも明るい笑顔ではっきりと述べていた。人は記憶を辿るとき目線が上に行く傾向があるが、その子はもはや白目になっていた。調べたらまだオープンしたばかりの串カツ田中で、この子は飲食どころかバイト自体初めてなのだろうと推測した。この子の華々しいビギナー戦に泥を塗らぬよう、可能な限りはきはきと返事をし、注文の際はメニューの正式名称を一言一句伝え、写真の指差し確認も怠らなかった。彼女は自分の説明を終えた後は自分には目もくれず、眉間に皺を寄せてハンディを見つめていた。注文ミスをせぬよう、彼女の今できる精一杯の礼儀だ。
串カツとスジ煮込みをつつきながら、生中を飲み終えた後、追加注文するべく店員さんを呼び、再度その子が来た。ハイボールと焼きそばを注文した時、彼女が恐る恐る尋ねてきた。
「チンチロ……します…か?」
そういえばさっきから他所のテーブルから福引のベルのような音がひっきりなしに鳴っているのが気になっていた。串カツ田中では、特定のドリンクを頼んだらチンチロに挑戦でき、当たれば何かしらの特典を得られるのだ。
こんなメガネの冴えない若い男がチェーン居酒屋に1人で突撃するだけでもかなりの勇気がいるのに、あんなに目立つチンチロをやるか、なんて愚問すぎる。どう考えてもやるわけがない。
ただし、この客はチンチロをやりたがる客か、やりたがらない客か、なんてバイト始めたての若い女の子に分かるわけがない、というのも事実である。むしろこっちの「分かるわけない度」の方が何倍も上である。
(こいつ…チンチロ…やるかな…。けど、後で「チンチロできたなんて聞いてない!やりたかったのに!!」とか言われたらやだな…。もしやるってなったらこいつ1人のためにベル鳴らして大声出すハメになるのかな…。)
「チンチロ……します…か?」
あぁ、田舎の、しかもチェーン店にお一人様で入るという狂人ムーブをかました時点で、自分はこの子を煩わせてしまっていたのか。ごめんよ。チンチロは丁重にお断りした。
会計の際も彼女はきちんと、領収書かレシートは必要か尋ねてくれた。
きっとこの子もいつか仕事に慣れ、むかつく客の生を勝手に多く計算したり、いつまでも居座る客の近くの椅子から机に乗せていき無言のアピールをしたり、クズだけど仕事ができるイケメンの社員といい感じになったりするのだろう。だけどどうか忘れないでほしい。たった1回の来店で、あなたの接客で、明日も頑張ろうと思えた客がいたことを。
自分も居酒屋でバイトしていた時、信じられないほど無愛想な客にあえて全力スマイルで応戦したところ、退店の際に無言でバキバキの目でグーサインを向けられてきたことをふと思い出した。
早く一人前になって、いつかまた、自分の仕事で誰かを嬉しい気持ちにさせたいと思った。
いい気分でホテルに戻り、コインランドリーに服を詰め込んだ。200円入れたのに、100円分感知されなかった。俺の機嫌がいい時で、命拾いしたな。