女子フリーターアルバイトさん(18歳)が当店に勤め始めてから、はや一年が経った。時の流れって早いなぁ。
昨日は女子フリーターアルバイトさんと一緒のシフトだった。夕方は来客数が多くて忙しかったけれども、ふと客足が途絶えた短時間のあいだに、女子フリーターアルバイトさんが一生懸命靴底を床にこすりつけているので、なんかベタベタするものを踏んだのかなあ? と思って「どうしたの?」と聞いたら、女子フリーターアルバイトさんはいい笑顔で、
「殺してました♪」
と床を指差した。小さめのカトンボみたいな、細くてフワフワ飛ぶだけの虫を靴底で丹念にすり潰していたのだ。
それからしばらく経って、また客足が途絶えたとき、女子フリーターアルバイトさんが天井の一点を凝視していたので、その視線の先を目で追ったところ、足の長い蜘蛛が一匹、天井に貼り付いていた。
「私が殺りましょうか?」
と私は答えた。それでも女子フリーターアルバイトさんは、後足ふみふみ助走待機モードを解除しなかったけれども、歳上の言うことには一応従うべきと思ったのか、うずうずしながらも脚立を持って来るのは諦めたようだった。
虫が出現するたびに悪鬼滅殺モードになる女子フリーターアルバイトさんを目にするたびに、なんか他の仕事したらいいんじゃないかな……傭兵とか。と思う。
暇になると女子フリーターバイトさんは横目でチラチラこっち見て、なんか暇だからお喋りがしたいな、とでも言いたげな顔をするのだが、実際喋ると親子ほどの年齢差があるせいで、全然会話が続かない。しかも意外と女子フリーターアルバイトさん、自分からは何も話さない。ノリが良いんだけれど、常にこっちが投げる球を全力で打ち返す姿勢を崩さない。さあいい球打って来い! と暗にプレッシャーかけられている気分にこちらはなるというもの……。
ほんともう話題がないから、そういえば彼女は『鬼滅の刃』が好きって前に言ってたなと、安直に、この間の日曜日から『鬼滅の刃』テレビでやってるよねー。と話を振ってしまったのだが、女子フリーターアルバイトさんは、
「うーん、やってますよねー」
と、《あたしはもう飽きましたけどね》という顔で答えた。コミュニケーション失敗。下手に話すとまるで若者に老人介護を強いているような罪悪感に苛まれて来るので、いいや、向こうから話しかけて来るまでほっとこう、と思った。
これも私のコミュ力が低いせいかと思ったが、コミュ力の鬼みたいなDさんも、女子フリーターアルバイトさんとは歳が離れ過ぎているからか何を話したらいいのか分からない、会話のネタが無いと言うので、もうこれはしかたのないことだと割り切るしかない。
女子フリーターアルバイトさんの私服がとても綺麗でお洒落だ。しかし、バイト代を服飾費に全額捧げないと無理めな格好だ。女子フリーターバイトさんちは母子家庭なのだけれども、彼女のお母さんはけっこう稼ぐ娘さんと同居して、税金問題はどうしているのだろうか、と地味に気になる。家にお金を入れて貰えないとお母さんの手取りが減って厳しいとかいうことにはならんのだろうか。でも、可愛い娘が自分でがんばってお小遣いを稼いでいるんだからと、大目にみていたりするのだろうか。
私が学生時代にバイトをしていると、親くらいの年齢のパートさん等から訳の分からない嫌がらせをされることが多々あり、どうして私がこんな目に……と思ったものだが、今、学生アルバイトの子たちの様子を第三者目線で見てみると、なるほどなぁ、と岡目八目で納得する部分がある。かといって未成年に嫌がらせするのなんて言語道断だけれども。
子供がバイトをして、当の子供は家計を助けたつもりでいるが、実は親の経済負担はむしろ増えているとかいうことも時にはある。目の前にいるバイトの子がそうであるかどうかなんて、他人には知るよしもないけれども、自分の子供の不遜ぶりと重ねてムカついている大人もいるんだろうな。
女子フリーターアルバイトさんが当店に勤め出す数ヶ月前まで、ある女子高生のアルバイトさんが勤めていた。彼女はバイト代を服飾と同人活動に全フリしている子だったのだけれども、自分よりもずっと歳上のパートやアルバイトの人が彼女に話を合わせると、調子に乗って、
「なんで○○さんは同人誌を書いたりイベントに出ないんですか? 推しに貢がないんですか? もしかして根性がない?」
などと平気で言い放ったものだったので、まぁうん、子供は気楽でいいな(反語)って思う……。私が学生バイトだったときにイビリ倒してきた大人気ない大人のようなことは、私はしないけど。