そんな感情を抱いたのは小さい頃からだった。クラスで読み聞かせられる絵本や道徳の授業で、登場人物が困っていたり悲しんでいたりしても何も思わなかった。むしろ、なんで登場人物は感情を昂ぶらせることができるのだろうと不思議でなかった
けれども、それが普通でないことは直ぐに気づいた。それはそうだろう、自分が何も思わない時に周囲は頬に涙を垂らし、中には嗚咽を上げる人もいた。周りの人間の感じることなんて全く理解できなかった。でも、大半が同じような人ばかりだった。だから、自分の方が少数派であり、おかしいのだと分かった。
それからというもの、普通の人間のように振る舞った。学習材料は、家族や友人が見るドラマや漫画、アニメなどの物語からだった。自分には面白さが全く理解できなかったけれども、どのポイントで人が感動するか理解した。だから、日常会話や体育祭などのイベントごとでは困らなかった。
なんなら、皆の感情を高まめるためにワザと泣いたり、指揮を取ったりもした。その時の感覚はゲームのようなもので、ただただ感情のツボを探して押せば周りが笑顔になったり悲しんだりしていた。面白かった。人間は単純で、ある意味機械的な動物なんだなということを知った。
中学生の頃に見た映画が、生活を一変した。『悪の教典』と呼ばれる2012年に公開された伊藤英明主演のサイコホラー作品である。内容をざっくばらんに説明すると、教師が学校で生徒を無慈悲に殺しまくるというものだ。これを観た時、衝撃が走った。生徒を殺して楽しそうな教師を見て、「いいな」と思ったのだ。
それからというもの、「人を殺してみたい」という欲望で頭が一杯になった。何度も殺してみようと思ったことがあった。部活帰りの暗い夜道で、前を歩く体の細い子を気づかれないまま首を絞めてしまおうと思ったり、同級生の家の近くにある小池に誤ったフリして落とそうと思ったり。少年法では罪が重くならないから、未成年の内に一度殺しを行った方が後々の為になるのではと考えたりもした。
とにかく、毎日人を殺すことを考えた。そして、その度に決まって勃起した。僕は家や学校の臭いトイレでスッキリさせることで、殺人への欲も発散させることができた。はけ口があったから、僕は今まで人を殺さずに生きてこれた。
そして、今年の4月から放送開始された「あなたの番です」を視聴していた。見ていない人はググったりして欲しいが、ざっくり言うと連続殺人ものである。最終回は元乃木坂46の西野七瀬演じる黒島沙和が、黒幕であることを語り、人殺しを愛してるというサイコパスぶりを顕した。SNSではこの常軌を逸した行動に理解できない人が多かったが、僕はそうでなかった。大体のシーンを殺し側目線で楽しみ、共感した。そして、勃起した。
特にオチはないが、世の中にはこういう人間もいるのだと覚えていて欲しい。殺しを我慢して日常生活を送っている人がいるのだと。僕は人殺しの欲を別の方法で昇華させることができるが、中には上手く行かずに悶々としている人もいるかもしれない。もし、そういった人の相談を受けても否定しないで欲しい。欲望をコントロールすることは本人でも難しく、下手に矯正しようとすれば過剰なストレスを溜め込むことになるだろう。だから、下手に刺激せずにそっとして受けとめて欲しい。お願いだ。