たった今、ホストとわたしの恋愛(笑)が終了した。なぜ恋愛(笑)なのかというと、わたしはこれを恋愛だと思っていたけど、向こうはきっと、っていうか絶対そう思っていないから。
今年の冬、わたしは友人と2人でホストクラブに出向いた。これが初めてのホストクラブだった。初めてのホストクラブはキラキラしていて、外のごった返した汚い風景の街とは全然違う異世界みたいだったのをよく覚えている。暗いのにギラギラしている店内に、イケメンがたくさんいて、そのイケメンたちが入れ替わり立ち替わり自分の横に来て話をしてくれたり、チヤホヤしてくれる。たったそれだけなのにめちゃくちゃ楽しかった。
わたしはその入れ替わり立ち替わり自分の横にくるホストの中で1人気に入った人がいた。彼は入ったばかりの新人で、他のホストが自分のことを話したり、わたし達の話を聞く中、彼だけはなぜか店の料金システムについて詳しく丁寧に教えてくれたので変に印象に残っていた。
最後、初回のお客さんは店を出るときに見送ってもらうホストを指名できるのだが、わたしは迷わずその変なホストを選んだ。
初回客から見送り指名を貰うのは入店して初めてだと嬉しそうにしてくれた彼の顔を忘れられない。
見送りのときにLINEを交換したのだが、交換したその日の深夜に電話がかかってきた。明日来れる?という営業の電話だった。初回のお客さんは翌日来店すると通常メニューより安く利用できるからとのことだった。安く利用できるなら…と翌日わたしはノコノコと2回目の来店を果たしたのであった。
2回目の来店から1ヶ月ほど、わたしと彼はずっとLINEでやりとりを続けていた。ほぼ毎晩通話をしていたし、LINEも途切れたことがなかったくらい。営業をかけられることもなかったし、わたし自身店に出向いてもいなかったので、正直、少しだけ特別扱いを受けてる気がしていた。
連絡を取り続けて1ヶ月、彼と遊ぶ約束をした。営業前に数時間だけ会おうと言われ、店に行くわけでもないならいいかなと思い、わたしはその誘いに乗ったのであった。夕方より少し早い時間に待ち合わせをし、カラオケへ行った。そこでキスをされた。されたというか、した。
そこから少しずつ今までと違うようになってきた。
向こうから好きと言われるようになり、かなり奥まった話しをされるようになった。店の定休日には数時間ほど電話した。地元の話、今までの恋愛について、本名まで彼は教えてくれた。「君にだけ話せることなんだけど…」という前置き付きで。
わたしはそういう話を聞いたり、そういう扱いを受けて、「自分はほかのお客さんとは違う」と浮かれてしまったし、勘違いしてしまったのである。
ひとつだけ言っておきたいのだが、100パーセント彼を信用しきっていたわけではない。元々過去の恋愛から男性に対して不信感を拭い切れない性格だったので、いくらホストに甘い言葉を言われたり、特別扱いを受けていても、心のどこかで「きっとそういう営業なんだろうな」と冷めた見方はあった。
店外で会うこと3回目、彼と一線を越えてしまう。
好きと言われ、優しく抱かれて、どう考えてもあの時間は幸せそのものだった。
「自分を安売りしたくないから、客とは絶対に寝ない」と事前に彼から聞いていた。
だから自分は客として見られていない、ちゃんと1人の女の子として見られているのだと思ってしまった。そういう営業なのかも…という疑心感もあったけど、彼の言葉を信用しきってしまいたい気持ちもあった。
やめとけばいいのに、わたしは彼に交際をそれとなく迫ってしまった。
ふわふわとした曖昧な関係は甘くて美味しいけど、わたしは彼とちゃんとしたお付き合いをしたかった。一線を越えてしまったからには彼女というポジションがほしくなってしまったのである。重たくてめんどくさい女なので、都合の良い女にだけはなりたくなかった。
「付き合う彼女には絶対結婚を意識する。自分は2年でホストを辞めるつもりでいるから、それまでは彼女に支えてもらいたい。2年でホストを辞めてその彼女と結婚したら、自分が全部面倒を見るから彼女には家庭に入ってもらおうと思ってる。だから2年間彼女にはホストとしての自分も支えてもらう。高いお酒を卸してもらわなくてもいいから、最低でも週3で店に来てもらいたい。」
ここでやっとわたしは、自分も鴨の一匹だったのだと気づいたのである。
彼のいうことが都合良すぎて、聞いてる最中に馬鹿馬鹿しくなってきた。
わたしは普通の大学生で、これからもそれを変えるつもりがない。20歳そこらの自分が、2年間、もしかしたらそれ以上長くなるかもしれない期間、彼に貴重な若い時間を都合良く搾取されるのはもったいないし、嫌だと思った。彼がホストを辞めたあと、わたしと本当に結婚してくれる確証なんてどこにもない。なんの保証もないまま自分のこれからの人生を投げるには、わたしはまだ若すぎる。
そう考えると、ついさっきまで彼にあった好意が少しずつ冷めていくのを感じた。
ここまでがついさっきあった話。
負け犬の遠吠えみたいなことを言うが、彼のことを信用しきっていなかったおかげで、わたしは彼のことを本気で好きじゃなかった。人生を捧げられるほど好きになれなかった。初めて自分の男性に対する不信感に感謝。これがなかったらわたしは彼のことを丸々信用して、鴨として若い時間を搾取され消費されていたかもしれないと思うとゾッとする。
でも、本気じゃなかったにしろ、わたしは彼のことが少なくともちょっとは好きだった。好きだったから抱かれたし、勘違いもしたし、浮かれた。
向こうはわたしのことなんて好きじゃなかったんだろうけど、少しの間 楽しい時間をありがとう。あなたとはもう会うのも、連絡をとるのも、やめます。
毎日LINEしてくれて、通話もしてくれて、本当にありがとう。恋愛から遠ざかってずいぶんご無沙汰だったから、それすらも本当に嬉しかったんです。わたしは。