働いている時は「無職」という単語にどうしようもなく惹かれていた。
「さっさと無職になってこんな社畜生活からおさらばしたい・・・」
そんな欲求にとりつかれていた。
無職の日常は最初は快適だったものの数ヶ月過ぎると不安しか残らなかった。
「将来に対する不安」
「周囲の目」
「無為に日々を過ごす事への罪悪感」
諸々。
働いている間はそんな不安は感じないのだ。ブラック企業に勤めていても、とりあえずは目の前の仕事を片付けることに集中してしまえばなんにも考えられなくなる。働いているので、無為に日々を過ごしている・・・なんてことも考えない。
仕事から開放されて少し時間が経った頃に不安は突如として現れて、私の胸を苦しめている。嫌なことばかり思い浮かぶ。自分を卑下するような言葉やあまったれた自己便宜的な文句を壁にぶつけては精神の安定を計る。
幸か不幸か、家族がいる私は皿洗いするなり、昼飯を用意するなり(弁当を買ってきたりインスタント麺にお湯を注ぐ程度)、部屋の掃除をしたりして、「何もしていない不安」から逃れている。いちおう他人の役には立っているのだ、という行動をする。
すると胸がやや軽くなる。ほんの少し スッ とする。
また私は働き出すだろう。またブラック企業に勤めてしまうかもしれない。もしかしたらアルバイトやパート、契約社員、派遣になるかもしれない。まだ分からない。でもいつかは働く。生きるのには金が必要だ。
だから今日の午前中、「楽してお金を得るには」と鬱々と考えた。
単純労働はだめだ。そうだ頭を使おう。人間には脳みそという素晴らしいものがあるのだから、頭を使って楽して金儲けだ! アンケートに答えてせこせこポイント貯めて換金なんてやってられるか! さくっとAndroidアプリでも作って一儲けすることに考えを割いたほうがよっぽどいい!!
私は「Android アプリ 儲け」とGoogle先生にお伺いを立てた。
結果は散々だった。
私は考えを方向転換させ、ブログで高収入!時代はアフィリエイトだよね!!
またしても現実は厳しい。
どうやら楽して儲けるのは難しいことのようだった。(そらそうだ)
私はPixivを徘徊した。自分のブックマークを眺めてはクリックし、しばしにやにやする。そこでとある作品に行く着く。
以前面白く読んでブックマークしておいた作品だ。書籍化されているらしい。
そうだ結婚だ!!
何度目かの閃きが頭に走り、しばし作品を読みフンフンと考えた。
積極性と自発的行動が求められるのは考えるまでもなくわたしは無理だと決断を下した。
見知らぬ人間と連絡を取り合い、食事し談笑するなんてハードルが高すぎる。
今、その工程をこなす自分を想像してみたが、その後のセックス的相性はどうなるんだろうとかしょうもないことしか考えつかない! 煩悩を直ちに消し去ってしまいたい。落ち着こう。
セックス、そんなものは一次的欲求を満たすだけの、ただそれだけの行為だ。他人と裸ん坊でベッドインせずともオナニーすれば性欲はひとまずどうにかなる。
まず性欲から離れよう。
今の私には「婚活」は無理だった。
アフィリエイトブログも、Androidアプリで一発大儲けも無理だ。そもそもプログラミングのプの字も知らない。
「なにこれ。意味分かんない」と頭の悪い女子高生の口調を真似るのが関の山だ。
親の脛をかじることだけはしたくない。
私は働かねばならない。
働くことは良い事だと思う。肉体を動かし汗をかく。お客様に「ありがとうございました!」と笑顔を向けつつ爽やかに言う・・・仕事を終えて家に着く頃には心地よい疲労感に包まれているはずだ。・・・心地よくなくとも疲労感はあるはずだ。
そんな日の夜はきっと寝やすい。無職で引きこもってセコセコとしょうもないワードを検索してはのたうち回る日の夜よりは寝やすいはずだ。
だから働くことは良いことだ。
どうせ長居もできず、耐え切れなくなったら逃げるようにやめるだけ。
そうして履歴書に汚点として刻まれるのだ。
そうなってはいけない。そうなりたくない!!
今はまだいい。金はある。働かないでいい。
でも、まだ、まだ働かなくていい。考えなくていい。
ちょっとは考えなくてはならないが、本腰入れなくていい。
まだ大丈夫だ。