その内容は売上高2157億円 営業利益▲573億円 経常利益 ▲1078億円 四半期純利益 ▲702億円 という、数年前の任天堂からは想像もつかないような結果でした。
任天堂の業績は2008年をピークとして、ここ数年は下る一方でした。
WiiやDSのハードウェア寿命が末期にかかっている中、次世代機である3DSへの以降がうまく行かず、WiiUはまだ未発売とハードウェアの移行に苦戦している中
スマートフォンや、ソーシャルゲームのような新興勢力の煽りもあるという状況もありますが、
その影には、リーマン・ショック以降続いている円高による影響も大きく関わっています。
今回はこの円高についてフォーカスを当てて、ここ数年陰ながら戦っている任天堂の姿を解説していこうと思います。
さて、時代はさかのぼって2008年リーマン・ショック直前の8月の為替相場を見てみましょう。
当時の為替相場は 1ドル 107〜110円 1ユーロ 160〜168円 で推移していました。
この後、リーマンブラザーズが破綻し、世界経済は危機を迎えました。
翌年2009年8月には為替相場は 1ドル 92〜96円 1ユーロ 132〜138円 になっています。
任天堂は売上の8割を国外で売り上げていますが、これらの売上高も目減りしていることになります。
しかし、製品の製造費の多くは円で支払っていたため、製造原価は据え置きでした。
そのため、製品原価は変わらないのに、売上高は減少し、利益を圧迫し始めていました。
その後任天堂は 各国の売上で得た外貨を利用して製造原価を支払って、為替相場の影響を最小限にする努力を行なっていますが
ユーロでの支払いを受け入れている業者が少ないなど、簡単には行っていないようです。
任天堂は多額の現預金を ドル・ユーロで保有していますが、それらの資産価値が10%〜20%目減りしたことになります。
これら理由により、円高の影響は売上高の目減りだけではなく製品の利益率低下による営業利益の低下、保有している現預金の目減りによる経常利益の低下を招きました。
現在の為替相場はユーロ圏のギリシャの経済危機など、より経済状況は悪化しており、1ドル 75円。1ユーロ 105円にまで円高が進んでいます。
2008年当時と比較すれば、30%程度利益を圧迫し、現預金の価値が目減りしていることになります。
そういった円高もありつつ、Wii/DSのプラットフォーム寿命の末期化。
3DSへの移行の不振による、3DSの値下げが重なり、今回のような赤字決算を迎えている。と言えます。
特に厳しい状況を生み出しているのが3DSの不振による値下げです。
日本市場では1万円の値下げし、25,000円を15,000円に、
北米市場では80ドル(6,000円)値下げし、249ドルを169ドル(12,675円)に、
欧州市場では80ユーロ(8,400円)値下げし、259ユーロを179ユーロ(18,795円)へ価格改定を行いました。
値下げ幅が大きいため、販売価格が製造原価を下回る いわゆる逆ざや状態となりました。
仮に、2008年当時の為替レート(ドル円110円、ユーロ円160円)だったのであれば、値下げ後の価格でも
169ドル(18590円)、179ユーロ(28640円) と逆ざやでなくなる、あるいは赤字幅を縮小できたでしょうし、
そもそも北米市場、欧州市場では最初からもっと戦略的な価格を提示できて、移行の苦戦も現在ほどではなかったかもしれません。
たとえば、現在国内でも好調な Apple ですが、数年後には日本での売上はどうなるかわかりません。
なぜなら、Apple は北米の会社ですので、基準通貨は円ではなくドルです。
現在は円高ですので、Appleからすれば、日本で商品価格を一定に保っていても、ドル換算すると少しづつ収益性は高まってきています。
それに伴い、Apple は円高還元という形でドル換算してほぼ一定になるように、日本での販売価格を従来より少しずつ安く設定しています。
つまり、日本企業である任天堂とは全く逆の現象が発生しているわけです。
では、現在は円高ですが、これが一気にドル円110円まで戻ったとしましょう。
任天堂にとっては現預金の価値が30%程度上昇することになりますし、北米市場において3DSの価格は一切変更せずとも商品の収益性も一気に改善します。
Apple の立場で考えれば、一気に日本市場の収益性が30%悪化します。場合によっては販売価格が製造原価を下回る逆ざや状態になるかもしれません。
だからといって、商品の販売額を30%上昇させると一気に消費が冷え込んでしまいます。
その為、為替相場が変わったからといって、簡単には値上げをすることができないのです。
このように海外で事業を行なっている企業にとって、為替相場の変動はとても大きな影響を与えているのです。
こんなにややこしいことになるなら、いっそ世界で共通の通貨にしちゃえばいいじゃない!と思うかもしれません。
しかし、それは現在問題となっているユーロ圏の問題と同じ問題を抱えることになります。
本来であれば破綻した国の通貨の価値が下がり、通貨の均衡は保たれるのですが、ユーロは欧州で共通して使われる通貨です。
そのユーロの価値が下がるということは、欧州全体に大きな影響をおよぼします。
何の関係もない、フランス・スペイン・ドイツといった国がとばっちりを食っているのです。
そして、これらの国々は「ギリシャの破綻=ユーロ危機」を回避するべく、多額のお金をつぎ込んでギリシャを救済しようとしているわけです。
これが世界規模で共通通貨にすると何が起こるかといえば、今回のギリシャ危機のようなことはもっと起こるでしょう。
さらに、中国のような経済成長著しい国があると、自然とその国にお金が集まります。
逆に経済成長がうまくいっていない国ではお金がどんどん成長国に取られて少なくなってしまいます。
すると、経済成長がうまくいっていない国の国民はどんどん貧しくなっていき、日常生活も難しくなるかもしれません。
為替相場が企業に与える影響についてや、共通化の危うさについて理解いただけましたでしょうか。
輸出企業は今は我慢の時期です。現在の円高は日本の経済成長によって発生しているものではありませんので、いつか逆転すると思います。
その時まで苦しい日々が続くかと思いますが、頑張ってください。