はてなキーワード: 流れに棹さすとは
といっても,私が所属しているのは,監督やトレーナーといったチームマネジメントではなく,チームやそのスポーツの関連事業を展開する部署だ.
おかげさまでここ数年はチームの成績もよくそれに連動して営業成績も右肩上がりのため,関連事業の予算は潤沢だ.
理解力のある上司や有能な同僚にも恵まれ,同じ業界の中でも先進的な取り組みを進めてきた.
2018年はこれまで積み重ねてきた成功事例をもとに,全く新しい分野で新規事業を立ち上げる予定だった.
ところが,この新規プロジェクトの立ち上げのために,昨年から協力関係を築いてきたスタートアップ企業がどうも怪しいのだ.
詳細は差し控えるが,たとえば,先方の主力製品の性能が,データと付き合わせてみると謳い文句の30分の1以下程度しかない.
スタートアップとはいえ,ある大企業の出資があるから背後関係含め問題ないという話だったのだが,その投資も異例の速さで引き上げられてしまったという.
こんな噂が昨年末にかけて続々と漏れ聞こえてきて,社内にもおかしいなという空気が充満していたのだが,敏腕上司の肝煎りで始まったプロジェクトのため,流れに棹さすわけにもいかないという感じで2017年の仕事納めを迎えた.
しかし年末年始にかけて,都内の他業種交流会に参加した際にこの企業の話になったところ,漠然とした疑いを裏付けるような証言が複数寄せられたのだ.
曰く,製品の性能は完全な誇大広告,オリジナルと言っていた製品はただのOEM,供給元はその製品を様々な販売店に卸しており,中にはマルチまがいの会社もある(あった),ここの社長は嘘をついて投資や仕事を引っ張る天才だが信頼を失って最終的に破談するのが常,都内の大手企業に悪評は回りきっってしまっており現在は地方の有力企業にあたっているのだ,等々.
都内の大手企業の面々は「貴社ならご存知のとおりでしょう」と笑いながら,青ざめる私の顔を明らかに好奇の目で見ていた.
もちろん,こういった場合,事実を上司に伝えプロジェクトにストップをかけるのが正しいのはわかっている.
だが,仮にそうなれば,昨年から陣頭に立ってプロジェクトを推進してきた上司は,間違いなく社内での立場を危うくするはずだ.
ここ数年の功績を鑑みれば,彼が社内で失脚するのを見るのは忍びない.
一方で,弊社がこのプロジェクトを進めた場合,それに続く第二,第三の地方企業が現れるのも想像に難くない.
弊社が「お墨付き」を与える格好になって,犠牲者を次々に増やしてしまうだろう.
単純に私に勇気がないのがいけないのだが,社内で不都合な事実を表沙汰にするのに気が引けてしまう.
このままズルズルとこのプロジェクトに関わっていいのだろうか.
昨年から抱えてきた憂鬱が,いよいよ今年になって形になってきて,これ以上,目をそらせなくなってきている.