歳の離れた弟がいる。
俺は大学から上京して一人暮らしをしているので、弟が10歳以降は盆と正月に会うくらい。
弟が高校生になってからは、東京の俺の家に泊まりにくることが多くなった。
弟は特に都会のあれこれには興味がないらしく、どうしようか迷って結局家でゲームするか、ほぼ毎回ディズニーランドに連れて行ってる。
家族旅行のない家庭だったので、それでもめちゃくちゃ喜んでくれる。
俺は申し訳程度に自炊をしているのだけれど、そんなに凝ってない料理でも作るとうまいうまいと食べてくれるし、勉強を教えてほしいって言ってきたり。
友達の兄弟は大人なってから口も聞かないとかたまに聞くけど、歳が離れているせいもあってか、俺は弟のことはとにかく可愛い。
友達の兄姉に姪っ子ができてバカかわいがりしているのを見たことがあるけど、多分あんな感じだと思う。
先月、弟がまた遊びに来ていた。
夜、寝る前に一つ相談をされた。
子供の前で喧嘩しないようにこそしていてくれたが、子供だけが二人が離婚しない理由になってるのは明らかだった。
弟も高校生になって、それを顕著に感じているらしい。
恐らく自分が大学まで出て、無事就職したら別れるつもりなんじゃないかと。
俺も弟の予想は的外れじゃないだろうと思った。
弟は決して出来の悪い方ではないのだが、俺のように東京の大学に行くほどではないと自分で思っているらしく、
(奨学金の返済がつらいと俺がぼやき続けていた影響もあるかもしれない)
地元の大学に行くつもりで、だから最低でもあと四年は両親に付き合わせる羽目になる。
それが心苦しいが、まさか気にせず別れてくれとも言えないらしい。
正直、家を出る前は俺も同じ居心地の悪さをひしひしと感じていたから、弟の気持ちは痛いほどわかる。
しかも、弟は俺がいないので、余計つらいだろう。
弟がこんなにも自分に懐いて、よく東京に遊びに来てくれる理由が分かった気がした。
そして、弟に頼まれたことが、自分を養子として引き取って欲しいとのことだった。
養子、つまり誰かを子供に迎えるということが俺にとってあまりにも非日常過ぎて面食らったが、弟は真剣そのものだった。
そもそも兄弟は養子縁組できるのか?とか疑問が浮かんだが、その辺も弟は既に調べてきていた。
両親の不甲斐なさはさておき、弟にそこまで頼りにされることは兄として正直嬉しい。
養子にするまではやりすぎじゃないかと思うが、東京に来て、俺と一緒に住んで、東京の大学に通えばいいんじゃないかと思った。
家賃や光熱費を俺が負担してやれば、地元の大学に行くのとほとんど変わらないだろう。
しかし、その提案をする前に、俺には一つ気がかりなことがあった。
それは、俺の存在が弟の世界を狭くしてしまってるのではないかということだ。
弟は、小学生の頃(俺がまだ地元にいた頃)こそ、よくふざけて笑う明るい子供のイメージがあったのだが、思い返してみれば、俺が家に連れてきた友達とばかり遊んでいて、自分で友達を作るということをしてこなかった気がする。
弟が弟の友達を家に連れてくる機会というのは滅多になかった。
学校には毎日真面目にいってるらしいので、ただ俺より大人しいタイプなのかもと思うが、土日もほとんど遊びに行くことはないというから心配になる。
まだ高校生なのでそれは焦ることではないのかもしれないが、彼女もできたことはないらしい。
弟の同級生ともなると歳が離れすぎていて、なかなか学校での様子を聞く機会もない。
母親が保護者面談などで聞く限りは、いじめられたりすることも、周囲と揉めることもないらしい。
心配するほどのことではないのかもしれないが、このまま俺が兄兼父親兼友達のような存在になってしまったら、ますます弟はその関係の居心地の良さに甘えて、外での関係性に力を入れなくなってしまうのではないかという不安があった。
とりあえず、弟には、家が居づらくなったらいつでも逃げてきていいと言った。
それから、俺もまだ頼りないけど、経済的な支援ならするから、大学から実家を離れることについても考えてみたらいいと。
本当に高卒で働きたい意思があるなら、母親の言葉に必ずしも縛られる必要はない、そこの説得は手伝ってもいい、と。
心配だったけれど、とりあえずそう言い聞かせて家には帰した。
弟は、俺の前でほとんど叱られるようなことをしたことがないが、
あれで頑固なところがあるので、たぶん何も言い返してこなかったところを見ると、納得はしていないのだろうと思った。
受験のことを考えると、そろそろ意思を固めないといけない頃だろう。
まだ高校生の弟に、何が自分にとって最適か、全部自分で考えろという子も酷な話だ。
かと言って、弟の人生全てに責任が取れるとは思えない自分が情けない。
一体どうするのが兄として正しいんだろうか。
養子縁組のメリットが分からん 親とも完全に縁が切れるわけでなし 相続的に増田が有利になるだけで終わりそうだが…