2019-09-03

三谷幸喜が好きだった話

かつて私は、三谷幸喜が好きだった。

その飄々としててちょっとネガティブで、でも面白いものを書くことに真剣な、三谷幸喜とその作品が好きだった。

以前はドラマでも映画でも舞台でも、なるべく追いかけていた。

王様のレストラン」のお洒落さとユーモア。「古畑任三郎」のイヤミスブラックさと程良いミステリー感。大河ドラマ新選組!」の熱い青春ストーリー

HR」なども、革新的な挑戦だっただろう。

「恐れを知らぬ川上音二郎一座」は綱渡りのような舞台にずっとハラハラするのに爽やかだった。

「おのれナポレオン」は舞台をフルに生かしていて観客ごとナポレオンの思惑に巻き込まれるような感覚を覚えた。

映画では「ラヂオの時間」が好み。

「ありふれた日々」も単行本を買っていた。DVDも揃えていた。

もっともこれくらいのファンなら、にわかに過ぎないだろうということもわかっている。

ところが、近年の作品になるにつれ「あれ?」と思うことが増えた。

お約束の畳み掛けネタに笑えない。

「この役者さん、前も似たような役で出てたな……」と思う。

どうにも面白くない。退屈で欠伸が出る。

清須会議」は開始15分しないうちに睡眠導入用BGMになった。

真田丸」は「新選組!」に比べて作品から勢いが感じられず、周囲で絶賛されている理由が全くわからなかった。

ちなみに「ギャラクシー街道」は予告から絶望した。もはや語りたくも無い。

私の嗜好が変化したのもあるだろう。

三谷さん自身プライベート生活環境の変化が、作風に影響したという事情もあるかもしれない。

いずれにせよ、大好きだったはずのものが次第に受け付けなくなるのは悲しい。決定的な理由、大きな理由も思い付かないから余計に虚しい。

ただ、最近はいわゆるアンチ意見のほうが納得出来てしまう。

信者も受信者も歳を重ね考え方が変わっていく以上、仕方のないことなのか。

ところが先日、某局で二時間ドラマ枠で「君たちがいて僕がいる」が再放送されていた。

実演販売人を主役に据えた、人情コメディである

なお、若かりし日の渡辺謙石黒賢メインキャスト(この二人が今も第一線で活躍している時点で凄い)。

期待はしていなかったが三谷作品の中では見たことが無かったので一応と思って録画し、暇だった今日の午後に見ることにした。

面白かった。

時間ドラマなのに人は死なず、ミステリーサスペンスもお色気も無い。

もちろん特別予算をかけたようなシーンも無く、舞台の大半は地方商店街駅前で画面は至って地味だ。

ほとんどが渡辺謙の軽妙な実演販売トーク石黒賢の執念めいた奮闘で成り立っている。

ネタバレは避けるが、「衝撃のラスト」なんていう安っぽい展開も無い。

でも、面白いのだ。

テンポの良い会話が疲れた心に心地良い。染み入る人情が胸に刺さる。

くすっと笑った所で、はっとした。

私がかつて三谷作品に求めていた、そして今も求めている、あたたかな笑いがそこにあった。

新作映画の公開に向けてテレビ露出されることも最近また増えたが、私はその度にチャンネルを変える。

三谷さんの「面白さ」がほとんどもうわからいからだ。

作品についても、当人についても。

それでも多分、これからも私は、少なくとも過去三谷作品についてはことあるごとに見続けると思う。

名作は廃れない。

かつて面白いと思ったものは、大抵は変わらず面白い

新作の「記憶にございません!」はどうだろう。

面白い、と思えない可能性が怖くて映画館に行くのを躊躇う映画など、正直私にとっては三谷作品くらいかもしれない。

しかし、「君たちがいて僕がいる」を見たことで少し気持ちが揺らいだ。

……あと10日ほど、迷ってみようかな。

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