俺には親友がいる。中学生当時SNSで知り合い、厨二病真っ盛りなハンドルネームを呼び、それがいつの間にかお互い落ち着いた名前になって、本名で呼びあうようになり、結局10年の付き合いになった。
住んでいた場所は近くなく、共通の趣味のイベントの際に会っては安い飲み屋でだらだらと喋り、酒の飲める俺と、全く飲めない友人で、何故か友人のほうがテンション高く盛り上がって10本以上の煙草を吸い、煙草を全くやらない俺は煙に咳をしながら笑ったり、なんだりした。
喧嘩をしたこともないわけではない。でもいつも俺が先に折れて謝って、二人で海を見ながらこれからも仲良くやってこうなだとか臭い台詞を言ったりもした。友人が落ち込んでいたら真剣に話を聞いたし、友人の喜ばしい話は本人以上に俺も喜んだ。まさに「気の置けない友人」で、こいつ以上に波長の合う人間も、こいつ以上になんでも話せる相手も、もう出会えないと思った。なんなら自分の彼女よりよほど気が合った。
数週間前、その親友から某メッセージアプリで朝早く不在着信が来ていた。仕事の都合上、朝に起きていることなど滅多にない相手だから何があったのかと思い、30分ほど経っていたが「今なら出られるけど何かあった?」と返す。数分して相手からの着信があり「ごめん寝てた。なんかあった?大丈夫か」といつも通り話した。けれど相手からはいつも通りの返事がなかった。はっきりと覚えていないけど「○○さんですか?こちら××警察署の△△です」みたいなことを言われた。その時点で俺はもう、察してしまった。親友がすでにこの世にいないのを。
親友はわりとハードな人生を送ってきた人だった。基本的にはやかましく、元気で、偉い人にはへこへこして、元気で、多くの知り合いからそう思われるタイプで、でも中身は本当に暗かった。だからいつかこいつは死んでしまうんじゃないか、と思っていた。「俺とお前が友達じゃなくなるとしたら、お前が俺にブチ切れるか、俺が死ぬかだな」と笑って言ったのもよくおぼえている。だから、親友のツイッターがどのアカウントも数日更新されていないのと、警察からの電話という二つの事実が重なって、俺は逆に冷静になってしまって、取り乱すこともなく1時間近い聴取を受けた。遺されたメモ書きに俺の名前が記されていたことを聞かされた。
これから仕事があることを伝えて、一度警察からの電話は切れた。切って、一度「□□が死んだのか」と声に出して、俺はやっと事実を飲み込んで、泣いた。職場に知人の不幸による休みの連絡を入れた。色々な感情が湧いて、それをとてつもなく大きな虚無感が覆っていて、耳が常に遠い。
警察から電話が来る数日前、親友本人からの電話を俺は受けていた。明らかに声に元気がなかったのも出てすぐに気づいたし、何かあったなら話は聞く、と言ったけれど本人は何も答えなかった。いつもなら短くても1時間以上は続く通話も、ほんの10分たらずで終わった。もうすぐ猫を飼おうと思っていること、名前と白い猫にすることだけは決めていること、来月俺と会うときに行く飯屋の話、好きなバンドのライブに行った話、今度は一緒に行きたいということ、そんな未来と良きことばかり話して、電話は切れた。今思うにあれは、助けてと言うつもりすらなく、別れの電話だったのかもしれない。あいつはそういう性格だからだ。
親友が死んだからといって忌引き休暇になるわけでもなく、SNSでの関係が主だったから親友の家族から通夜の連絡が来るわけでもなく、俺は翌日には仕事に出た。突然お休みをいただいてしまい申し訳ありませんでした、と謝って、なるべく忙しくなるように業務を探した。いつもなら引き受けないものも引き受けて、とにかく空白の時間を作らないようにした。メッセージアプリもツイッターもあまり見ないようにしていた。10年分の付き合いはあまりにも感情の作動するセンサーを各所に張り巡らしていて、油断するとすぐに友人の顔が浮かんできてただひたすらつらくなった。
俺はこれから、嬉しいことも、悲しいことも、親友とお互い好きだったコンテンツの新情報も、どこに言えばいいのかわからない。お互い好きだったコンテンツのイベントに今後も足を運べるかわからない。
薄情だと言われるかもしれないが「あのとき助けてやれなかった、俺の所為だ」という気持ちは湧いてこなかった。頑固で決めたら譲らない、意地っ張りで強気で弱いところを見せるくらいなら全部捨ててやる、とでもいった親友の性格を鑑みて、本当にその時点で決めていたのであればもう何もできなかったと思う。というか、そうであってくれ、と願ってしまうし、本人も「俺の所為だ」と俺が思うことを望んではいないと思う。そういうやつだからだ。
だけど俺は本当に、寂しい。あいつがいて当たり前にやってきたことを、もう二度と全てできない、と色んなことをしていていつも考える。今後の人生においても、ずっと思う。親友のいた未来を想像してしまう。つらいことが起きたとき、まず話して愚痴を言っていた相手がもういない。人生で初めて増田に書いてしまうくらい、俺のコミュニケーションの大部分が亡くなってしまった。それでもメシは食べなきゃ腹が減るし、仕事には行かなきゃいけないし、客相手には笑って返事をしなきゃいけない。生きることがせめてもの…だとかあいつの分まで…だとかいうつもりはないが、俺は生きなければいけない。
だけれど、親友には言っておきたい。お前が死んだら親友じゃなくなると言ったが、お前が死んでも親友だよ。それだけはあの世にも伝わってくれ。
喧嘩別れじゃないのだから 心の中の友人と 人生と趣味を楽しむんだ
私もそうだった。いつかの死の予感を感じてた。 親友との別れは悲しいというより、さみしい。そのさみしさがずっと続くのだ。
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