2013-10-17

本田は冬に移籍するよ

書く場所が無いのでここに書く。

なお、ここに書く内容は海外サッカーのファンには常識と言って良い内容だが、サッカーファンじゃなければ知らない事も多いようなので。

過去の経緯とか見たらエア移籍とか言いたくなるのは分かるし狼少年状態になってるのも分かる。

だが、今冬は(移籍先がミランであるかはともかくとして)移籍すること自体は間違いなくできる。なぜならば、CSKAモスクワとの契約が切れるからだ。

欧州サッカー契約社会だ(もっとも、給料の未払いは珍しくないが、最終的には支払われる)。そして、サッカープロリーグ世界中にあるので、野球(アメリカ日本韓国制度が違うが、国をまたいで移籍するときルールプロ組織同士で決めておいて何とかなる)などとは違い、「どこの国でも通用し、分かりやすい」ルールが求められる。

から現在サッカーの移籍ルールは次のようになっている。

1.契約期間を満了したら、選手は旧所属クラブに気兼ねすることなく好きなクラブに移籍できる。移籍金(クラブ間のお金のやりとり)も基本的には発生しない。

 1-附則.なお、契約満了の6ヶ月前から選手所属クラブを気にせず他クラブと交渉できる。

2.他クラブ契約期間中の選手を獲得する場合は、原則として移籍金(というかむしろ契約解除料)が発生する。

 2-附則.2で書いた『他クラブから選手の獲得』ができるのは、リーグが定める移籍期間のみである。(欧州はだいたい、『シーズン終了から8月最後9月最初月曜日まで』と『1月一杯』)

これだけだ。1.を見ると著しく選手に有利、クラブに不利なルールのように思えるが、かつて実際にEU裁判所裁判になって認められたルールなので仕方がない(気になる人は「ボスマン判決」でぐぐって下さい)。ともかく、契約が切れた選手はどこにでも移籍できる。本田例外ではないので、1月CSKAモスクワ契約が切れたら本田を欲しがるどこのクラブにも移籍できる。1月という中途半端な時期に契約が切れるのはロシアプレミアリーグのシーズン移行(2,3年前に春開幕を夏開幕に変更した)の影響だと思うが詳細は知らない。

逆にこれまでは、ラツィオにせよ、ACミランにせよ、他のクラブ(どこまで具体的に動いていたのかは不明だが)にせよ、本田CSKAモスクワとの契約期間中である以上は、本田合意するだけでなくCSKAモスクワyesと言わない限り本田を獲得できなかった。それだけの話だ。極端な話、10ユーロ用意してもCSKAがノーと言ったらそれまで。「この金額ならCSKAもyesと言うだろう」という読みを間違えたに過ぎない。

せっかく本田という良い例があるので、移籍に関する実態をもう少し解説しよう。

俗に『育てて売るクラブ』と言われるクラブがいくつもある。そのような『選手移籍金重要収入源』なクラブではない、『まず国内リーグチャンピオンズリーグで勝つことが優先』なクラブであっても、選手を売るとき移籍金を気にしないでいられるクラブなど両手の指の数ほどしかない。

まり、極一部のクラブ例外として他のクラブにとっては、『契約を満了して移籍金なしで移籍されると損』となる。そういう大多数のクラブにとって『シーズン終わったら契約切れる選手』は言うまでもないが、『契約が残り1年以内の選手』も大きな地雷だ。

来年になれば移籍金発生しませんよ? それよりは今売った方がトータルでお得でしょ?」と、買い手から値切りにあう(CSKAにミランが使った手がこれ)。そしてたいてい、確実に移籍金を取れる機会は限られているのでそこで売る事が多い。

クラブは対策として、早めに契約を延長すればいい……と言いたいところだが、これで選手が売れないと大変なことになる。どこのサッカークラブも最大の支出人件費であり、そして人件費のメインは他クラブに払う移籍金ではなく、選手本人に払う給料だ。契約を延長しておい選手が大けがをしたり不振に陥ったりしたら痛手だ。延長するかはクラブ選手合意することなので、若くて脂ののった選手に『今までと同じ安い金額で』では断られる。

なので『契約延長オプション』というのがよく使われる。「2年契約だけど、クラブ希望したら年俸○○ユーロで3年目も契約することとする」というものだ。これを使えば低リスク長期間選手を確保することができる。

だが最近では選手も対策するようになり、「契約解除料があらかじめ設定されている」契約を結ぶ場合も多い。この場合、決められた契約解除料を支払えば他クラブはその選手を獲得できる。ドルトムント香川の同僚だったマリオ・ゲッツェバイエルンに移籍する時にはこれが使われた。クラブは「契約で決められたことである以上文句は言えない」とコメントし、文句を言いたそうにしていた(笑)

これ以外には、南米クラブが有望な若手選手と長期契約を結ぶ時に使う「移籍金が発生する形で移籍する場合移籍金の何%かを選手に支払う」という契約形態もある。欧州ではあまり聞かない。

そうでなくとも。ファルカオが6000万ユーロベイルが1億ユーロだという金額を聞いていると感覚麻痺してくるが、そういう高額移籍は滅多にない。大多数の選手はそのような高額移籍とは桁が違う金額だったり、移籍金ゼロだったりで移籍している。それを考えれば、2年前にラツィオ本田に1400万ユーロの値をつけたというのは中心的なリーグでのプレー経験が無い選手にとっては最大級の評価だ。

そのような場合、「もうこんな1000万ユーロ超えるような値段がつくこと無いんとちゃいます? なら今のうちにこの値段で売った方がそちらもお得やろ。ほら、早よせんと移籍期間閉まってまうで~」という値下げ交渉になることも多い。マドリーベイル獲得がもつれたのもそうだし、ラツィオがCSKAに使ったのもこの手だ。

なぜラツィオミランは失敗したか? それはCSKAがクラブの規模の割には資金に恵まれているからだ。単にオーナー石油関係金持ちだというサッカー関係のない理由だ。ラツィオが1400万ユーロを一括払いで出していたら本田ラツィオに移籍できたのだろう。今夏は何が原因だったのか、よく分からないがオーナーがここまで書いた事情を分かっていて、「数百万ユーロで売るよりは、我がクラブチャンピオンズリーグベスト16に進むのを見たい」という夢を取ったように見える。

  • 「数百万ユーロで売るよりは、我がクラブがチャンピオンズリーグのベスト16に進むのを見たい」 というよりは、「売ってもいいがおまえの態度が気に入らない」だったらしいが。

  • ボスマン判決はEU内国籍選手に対する判決。本田とCSKAの契約にはぜんぜん関係ない。

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