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2021-06-01

会社経営してるけど、元増田とはだいぶ意見が違う

同じく会社経営だけど、元増田とはだいぶ意見が違うので簡単に書いてみる。

最低賃金をめぐる経済学的な議論には、色々な立場がある。理論経済学的には、最低賃金を設定することで、死荷重最低賃金以下での雇用機会の損失による非効率)が発生し、労働市場効率が悪くなり、社会全体の効用が下がる、という予測が導き出されるけど、統計上はこの死荷重による負のインパクトははっきり観測されていない。最低賃金存在労働市場を歪めているという実証的な研究結果はない。

最低賃金という制度重要ポイントは「地域内では一律に設定される」という平等性にある。つまり、輸出中心の産業海外労働力コストと直接競争する産業)を除いたドメスティックな業種では、自社もその競合業種も、労働力調達コストにおいてみんな同条件の上方シフトを被る。これは、各企業がこれまでと同じ収益性雇用を維持し、同じ水準のサービス提供しようとした場合、そのコスト上昇をすべて販売価格転嫁しても競争力を失う可能性は低い、ということでもある。労働コストの上昇分を販売価格転嫁しない企業があるとすれば、「企業収益性を下げてでもシェアを取る」という選択をしたからで、これは人件費に限らず部材調達やその他諸経費の値上げなど、原材料費や外部経費のすべてに妥当する話だ。最低賃金に固有の問題ではないし、いずれは市場機能によって均衡する。

最低賃金が上がった場合経営側の行動変化

・時給1500円以下の仕事しかできない人は雇わなくなる

→これは短期的には正しい。人員1人あたりに期待される労働生産性が上がり、その水準に満たない人は雇用できなくなる。一方で、長期的には正しくない。最低賃金が上昇すると、社会全体での労働財の単位価値が上がり、それによって「時給1500円の仕事」の水準が相対的に下がるからだ。

・既に働いている生産性の高い人材給与は下がる

・既に働いている生産性の低い人材給与は上がる

労基法を遵守している企業なら、上のやつは不利益変更だからそもそもできない。普通正規雇用社員給与体系では、生産性の高い(職位が上、業績が良い)人材給与が下がって、生産性の低い人材給与が上がるような人件費の調整はできない。

元増田は、最低賃金アップを「生産性の高い/低い労働者間のバランスを変える問題」としてとらえているようだけど、認識がズレていると思う。ぶっちゃけ単位労働価格が上がることによって労働者間のバランスほとんど変わらない。労働コストが上昇したとき企業が取り組むのは「労働集約的なタスクを、技術集約/資本集約的なタスクに振り替える」ことだ労働コストが上がると、いままで人間がやってた仕事の中に、設備投資して機械化したりロボット化したりICT化して人を減らすほうが低コストになる仕事が増える。しかもその仕事は、必ずしもブルーカラー労働というわけではない。リンダ・グラットン『LIFE SHIFT』では、各業界市場成長や機械化の可能性をもとに予測すると、これから時代雇用数が減っていく職種は①機械操作肉体労働、②製造、③事務管理部門、④セールス、⑤管理職の5職種で、伸びるのは①介護、②警備、③専門職、④技術職、⑤食品/清掃の5職種とされている。

■結果として起こる社会情勢の変化

・低スキル人材/新卒/未経験者/中卒/高卒 等が失業する

→上で書いた通り、最低賃金アップは「生産性の高い/低い労働者のあいだの力関係を変える問題」ではない。最低賃金が変えるのは「人的労働機械化のあいだの力関係」で、その影響はスキルの高低や学歴職歴には関係なく、その職種の主なタスク定型性が高い(機械化と相性がよい)かどうかによって決まる。だからセールスだって管理職だって失業する。

企業の未経験者に対する職業訓練機会の減少

労働コストが上がると、労働者にはそれ相応の労働生産性を獲得してもらわないといけなくなるので、人材教育重要性が高まる社会変化によってスキル陳腐化が加速しても、やっぱり人材教育重要性は高まる。だから文科省産業界もやたらとリカレント教育と言い始めている。そもそも経験者を職業訓練しなければ、既存社員はどんどん高齢化して離脱していく。いまは経験年数の長いハイスキル人材流動性もすごく高まっていて(顧問名鑑などの高度人材紹介業がそういった人材活用している)、そういった人材を今の雇用条件で繋ぎ止めることは難しくなっていく。だから企業経営者として、将来的に職業訓練機会を減らしていくイメージが全く湧かない。逆にどれだけきちんと教育できるかを常に意識している。

失業保険/生活保護等の社会保障費の増加

失業保険は一時的問題からここでは措いておこう。生活保護については、最低賃金改定は、生活保護支給条件である「最低生活費以下の収入」に対して正のインパクトも負のインパクトも及ぼす。たとえば最低賃金を500円にした場合、月20日フルタイムで働くパートタイマーの月収は8万円となり、現在首都圏の最低生活費(約12万円)を下回る。最低賃金を下げることで、いまコンビニスーパー工場などで最低賃金で働いている非正規労働者が、みんな生活保護潜在的対象になってしまう。逆に最低賃金がアップすることで、この最低生活費以上の収入を得て生活保護を脱することができる人々も出てくるだろう。

最後陰謀論的な読み解きをしているけど、その前にこういう個別論点をきっちり検証していったほうがいいよ。それが経営者の仕事。間違った前提で間違った舵取りをして、従業員を不幸な目に遭わせてはいけない。

anond:20210601142224

 
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