2015-06-23

セックスって言葉エロすぎやしないか

「失敗って言葉、まじ救いがないと思いませんか?」

新人の後輩がそんな言葉を投げつけてきた。

彼は我が職場工場において3つ存在する「絶対に閉めてはいけないバルブ」のうち、何をトチ狂ったのか2つを連続して閉めるという史上初の快挙を達成した男だった。

当然、職場大パニックに陥り、上へ下への大騒ぎ、鯛や平目の舞い踊り、といったとにかく大変な状態となったのだった。なんとかその苦難を克服し、職場平穏が戻りつつあった時、彼は冒頭の言葉を言い放った。

職場内では、彼がライバル社のスパイであんな行動に出た、だとか、彼は専務の甥でコネで働くことになったが嫌々だったため解雇されたくてあんなことをした、だとか、バルブを閉めるときにアヤナィィィィィと叫んでいただとか、根も葉もない噂が蔓延していた。

そんな様々な噂が渦巻く中で、別の用件で彼と話をする機会があったのだ。結構おそるおそるで、彼が深刻な顔をしながらあの日のことを「神が直接僕の脳にバルブを閉めろと語りかけてきたんです、悪魔が来る日に備えて!」とか言い出したらどうしようかと思ったが飛び出したのは冒頭のセリフだった。

「失敗って言葉、まじ救いがないと思いませんか?」

彼曰く、今回の自分の行動はミスであり失敗である、それを痛切に感じているとのことだった。それを踏まえてなお、「失敗」という言葉字面はあまり無慈悲であると言いたいようだった。

「失敗」

読んで字の如く、失って敗れることである。ただ敗れるだけでなく、失うことまでセットと読むこともできる。完全に踏んだり蹴ったりだ。

「この字のイメージだと、すごく大変なことをしでかしてシャレにならない感じしませんか?些細なミスを敗北にまでもっていくのはあまりにもあんまりだ」

僕はこの時初めてこいつは何も反省していないという事実に気がつき、驚き、こりゃあながち他社のスパイって話も眉唾じゃない、閉めるときアヤナミィィィって叫んでたんだろ、と理解するに至ったのだった。あれを些細なミスと言って良いのだったら、自身音楽著作権の二重譲渡城崎に100回以上日帰り出張些細なミスで済みそうな勢いだ。

けれども、彼の反省はともかく、言いたいことはかなり理解できる。

「失敗」

この文字の持つネガティブさは相当なものだし、些細なミスもこの深刻そうな文字で表現されることで、さも大事のように感じてしまうのも確かだ。

極度に「失敗」を恐れ、マニュアル通りに行動するしかできない、もしくは行動そのものを起こさない人々が増え、チャレンジ精神が失われつつあることも「失敗」の文字が持つ重大さがいくらかは関係しているのかもしれない。人々はとにかく失敗を恐れすぎている。

同時に、私はかねてから同じように考えている言葉があった。それが「セックスである。この「セックス」という文字、とにかくエロい。かなりエロい言葉から連想する内容だけでなく、この4文字がこの順番で並んでいることがとにかくエロい

ジーッと字面だけを眺めていても色々と感じるものがあって、例えば、直線だけで構成されている文字なんだとか、クとスは比較的似ている文字だとか、色々見えてくる。

次に見えてくるのがバランスエロさだ。字の高さを揃えるのではなく、ッの部分でわざと低くしている。この凸凹感がとにかくエロいし、クスという部分のクの不安定さをスの安定感で補っている部分などエロしか感じない。セの返しの部分なんかド直球のエロさだ。

字面の段階でエロいセックス」、この言葉があまりエロすぎる故に日常生活から敬遠されがちだ。電車バスラッピング車両に「セックス」と書かれることはないし、看板にも大型ビジョンにも「セックス」が登場することはほとんどない。つまり日常からセックスが遠ざけられてしまっているのだ。

清潔で平和であるこの国は、あらゆる生物死体を見る機会がほとんどなく、核家族化が進み祖父が死んだなどの家族の死を経験しない子供たちは「死」というものをあまり理解できない、という話を聞いたことがある。

それと同じで、あまりに遠ざけられたセックス、は性に関する様々なことに影響を与えているのではないだろうか。それらが少子化などの遠因になっている可能性も否定できないのではないだろうか。

そして、その一端を「セックス」という字が持つエロさが何パーセントかは担っていると考えるのだ。

まり、今後はもっと日常的にセックスが町に溢れ、身近なものになるべきなのだ。それには、もっとエロくない単語に置き換える必要がある。そう、例えば性行為のことを「鳩」と呼ぶことにしよう。

エロビデオなどでも、新人女優インタビューを受ける際は、ちょっと色黒の男優質問

今日はみんなにセックスを見てもらうわけですけど。すごいよー、画面の向こうでみんな君のセックスを見てる」

とか言って群馬から出てきたばかりの女優赤面させる。なかなかわかってるやつだ。でも、こんなもん地上波では流せない。いや、エロビデオは流せないけど、このセリフだけでもエロすぎてダメだ。ところがどうだ。こうすると一気に様子が変わる。

今日はみんなに鳩を見てもらうわけですけど。すごいよー、画面の向こうでみんな君の鳩を見てる」

地上波で流せてしまう。たぶんEテレもいける。

終電を逃した26才OLカクテルを傾けながらかねてからジャニ系でかわいい顔と狙っていた新卒の22才イケメンに言う。

今日は私とセックスしよ」

これでは新人に逃げられてしまう。逃れられない恐ろしさ、重さ、彼に十字架を背負う覚悟があるのか!22才の彼にはあまりに荷が重過ぎる。結婚させられるんじゃないか。赤色カクテルを飲む彼女が生血を啜る魔物に見えるかもしれない。ところが、こうするとどうだろうか。

今日は私と鳩しよ」

なんだか楽しそうだ。

そうこうしてると、「鳩」では温い。もちろんセックス言葉を変えて性行為を身近なものにしようとしてるのは理解するし応援もする。でも「鳩」では温い。それでは草食化は止まらん。もっと過激な動物にすべき。そんな意見が飛び出してくるはずだ。

ライオンじゃあ身近じゃない、タイガーもだめ、ハイエナはなんか意味が違う、馬はどうだろうか、犬はどうだろうか、カブトムシという手もありますぞ、色々な意見が出され、議論がととっちらかってしまい、せめて鳥類でいこうと主張するグループが出て結束を強める。紆余曲折を経て、鳩より攻撃的な「鷹」にしようという形でまとまる。

こうして、セックスのことを「鳩」と呼ぶハト派「鷹」と呼ぶタカ派二大勢力に分かれることになり、ますます意味が分からないことになる。長いこと穏健なハト派と過激なタカ派の論争は続くことになるのだけど、

今日は鳩したいな」

「鷹ならいいよ」

「は?」

みたいなことが続くようになり、不便だという声があちこちからあがる。しかし、どちらの派閥無視できないほどに大きくなりすぎていて、ある意味宗教がかってきているので、双方に気を使う形で

タカハト

行為を指し示す言葉がそう制定されるが、なんで鳩が後なんだよ、それに全国の高橋君のあだ名がみんなこれになる気持ちを考えたことあるのかという声が高まり、かなり配慮した形で

「ハタカト」

という文字に落ち着く。性行為は「ハタカト」、「裸と」みたいでいいでしょ、そう発表する時の官房長官ドヤ顔が今から目に浮かぶ。

で、それから数年して、すっかり「ハタカト」が定着した時、こういうと思うんですよね

「ハタカト」って文字はエロすぎる。

結局、「ハタカト」って言葉を公の場で出すことはなくなって、老人は「セックス」って呼ぶから若者は何のことか分からずに混乱するし、大失敗になるんですよね。

でも、「失敗」って言葉はマジ救いがないですから、こういう些細なことは「失敗」ではなくマイルドな「マングース」あたりの名称を用いたらどうか。

  • 言いにくいので、これからは手術のことをカトリーヌと呼ぼう!

  • 代用される先の言葉自体が元々持つイメージを借用しているに過ぎないので、時間が経てば元の言葉と同じようなニュアンスで扱われるんじゃないか。 そして放送禁止用語になる鳩。

  • これがブコメとかで文才だとかもてはやされてるのバカじゃねーの 全然おもしろくもなんともねーよ

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