あの、目の中に物を入れるという行為を難なくやってのけるのがすごい。
こう書くと、いやいやそんなもん慣れですよとか、むしろ出来ないんですかと思われそうなので私の体験談をここに書いておくことにする。
結論から言うと、私はコンタクトレンズを使おうとして失敗した。
医者曰く、そういうケースは実際あるらしい。が、数十年感生きてる間にそういう話を一度も聞いたことがなかったので、本当かはわからない。
が、現に自身はそうなったので、信じられないかもしれないがそういう例は確かにあると自信を持って言える。
自分はメガネが必須というほど視力が悪いわけでもないが、ないと確かに困るな、ぐらいの目の悪さである。
裸眼視力はおそらく0.4ぐらいで、このぐらいだと「造形や物の種類は特に問題なく把握できるが、文字を読みにくい」ぐらいの感覚である。
コンタクトにしようと思ったきっかけも些細なもので、食事の時にいつもメガネを外してるのでその手間を無くしたい、ぐらいのものだった。
まああとはメガネが無い方が良いよと言われたというのもある。
今思えば目薬すらまともに差せないぐらいビビリなのにコンタクトはなんでできると思ったのか、割と不思議である。
もっとも、コンタクトができない人がいるなんて勿論思ってなくて、それこそ「そんなもん慣れですよ」と漠然と認識していたからなのだが。
そんな軽い気持ちで眼科に行き、一通り検査を受けた上でお医者さんから軽く話を聞く。
そこで言われたのは「着用練習を行うこと」、「それが終わらない場合は処方箋を出せない」ということ。
練習があるなんてありがたいと思ったし(自分でできるわけないので今思えば当たり前なのだが)、処方箋が出ないケースなんて目の病気とかそういうのしかないんじゃないか?と思っていた。
検査自体は終わっていて特に問題もなかったため、これでコンタクト生活できるな~~、などと浮足立っていた。
その後、案内されて着用練習を開始した。
コンタクトの現物を見て初めて知ったのだが、液体に浸された状態でコンタクトが入ってる。
まずそこでカルチャーショック。薬の梱包程度のものだと思っていたので、随分とガッチリしてるな……と思った。目に入れるものだと思えば至極当然だけれども。
で、コンタクトを容器から取り出すのだけれど、これがまた難しい。
これまた当然なのだがコンタクトは無色透明なので、液体の色と同化してそもそもコンタクトがどれかを認識できない。
よくよく見ると縁が若干青いことに後から気づいたが、すくいだすことに必死でやってる最中には気づかない。
私はまだ裸眼視力がそこそこあるからいいが、0.01とかの人ってこれ見えるのか……? と感じた。
まずそこで結構時間を食った。実際の所要時間は分からないが、体感15分ぐらいは格闘してたんじゃないか……と感じるぐらい難しい。
右手左手で目をかっぴらきながらコンタクトを眼球の上に載せる、というただそれだけの作業が全く出来ない。
まず右手の中指であっかんべーみたいな形を取る。これはまあいい。
その後、左手で右目の瞼を全力で引っ張り上げる。ここが難しい。
元来目を開かないタイプの人なので、目を開こうとしても瞬きをしたくなってしまう。
そこで格闘した後、コンタクトを目に近づける。これがまた怖い。
どうしても瞬きをしてしまうし、瞬きを抑えたとしても今度は顔が微妙に逸れてしまう。本能で拒否しているんだろうなと感じた。
見てくれている看護師さん(かは分からないが、そう呼ぶことにする)も根気強く教えてはくれるが、なかなかその通りできずにいる自分に不甲斐なさを強く感じる。
途中コンタクトを床に落としてしまい、そこでもまた申し訳ないゲージが溜まっていった。
……体感では1時間にも2時間にも感じる無限の格闘の末、ようやく装着できた。
初めてのコンタクトレンズは、目に完全にフィットして違和感もなく………ということはなく、普通に違和感があった。
なんというか、こう、目にホコリが入ったときの感覚が常時続くような感じ。異物感がすごい。
異物が入ってるのだからそれが正常なのだけれど、どうにも気持ち悪い。
必死で慣れようと意識した瞬間に、どんどん気分がボーッとしてきて、立ちくらみの時のような感覚に襲われ……
転倒した。尻もちをついた瞬間に、自分が椅子から転げ落ちたことを認識した。
そこからはまあお医者さんが慌てて出てきて安静にしてくださいと言われながら状況見聞された。
多分すごく周囲の注目を集めてたんじゃなかろうか。あまりに小っ恥ずかしくて開口一番出た言葉は「ごめんなさい」だった。
傍から見ても恥ずかしさで参ってるように見えたのだろう、たまにあるケースだから……!と何度も言われた。
まさかコンタクトレンズごときで倒れるなんて思ってなかったので、自分で自分にびっくりしていた。
そして起き上がれることを確認したのち別室に連れて行かれ、そこで10分ほど横になった。
寒いからか、自分への不甲斐なさかわからないが、体が妙に震えていたことを覚えている。
医者からは「今回は処方箋を出すことはできないが、次回以降でリベンジすることはできる」と言われた。
ここまで覚悟が必要とも思ってなかったので、もう生涯眼鏡生活でもいいやと思い、今に至る。
という経験を踏まえて言うと、コンタクトレンズ使ってる人ってすげえよ。ほんとに。
使ってる人は誇りに思って生きていいと思うよ。マジで。