ことの後悔を延々としている。
Yさん送別会でのことだ。
バイト先の、一つ年上のYさんの話。
Yさんは地頭が良く知識や技術があるのに、ギャンブルにハマりネズミ講に手を出して借金を抱えている元フリーターだ。
面白く優しい性格や、決して欠勤しないタフさから、バイト仲間からの人望も厚かった。
私も彼のことがとても好きで、もっといろんな顔を見たいとちょっかいを出していたし、向こうからも時折構ってくれていた。
会って2ヶ月くらいの時に、ご飯行きましょとダメ元で誘ったことがある。
「いいよ、行こうぜ」という快諾に心躍らせたのも一瞬、彼の背後にはバイト仲間の暇な男性陣がニヤニヤ立っていた。
私の乙女心まんさいピュアピュアラインメッセージは、知られたくない所に晒されていたらしい。
悔しくもあったけど、みんなで行ったカラオケもまぁ、楽しかった。
その一ヶ月後に私はとある男性と恋に落ちて、付き合うことになる。
筋肉で攻められるセックスがすごくて、私は彼に夢中になったけれど、バイト中にYさんに絡むことはやめなかった。
バイト仲間との飲み会の時にカレシができた報告をすると、誰よりも目を丸くさせていたのは隣の席のYさんで、間髪入れずに「どこが良かったの??」と聞いてきた。
「てっきりYさんのこと好きなんだと思ってました」と年下の子に正解を言われて、彼氏を最上級に持ち上げた後、Yさん、好きですよと雑に告白した。
そこから季節が一巡しようとしている。
Yさんとシフトの日には気合を入れて化粧をし、深夜に店を閉めた後はYさんの家の方角までちょっと付き添って適当に話をして、踏切の前でさよならして少し遠い家までチャリを飛ばして、大雨の日にはYさんが「今回だけだからな」と車を出して家まで送ってくれて、二人で暇なバイトの休憩時間は一緒に動画をみて、みんなでよく行くボーリングやラーメン屋でも食べて遊んで笑って、酔ったYさんからラインがきても動じずに返して、飲み会で私の足を舐めてきても笑顔で許して、ふと「動物園行きません?」って聞いてみたらめちゃめちゃフラれて、
トータルで言えば仲良くやってたと思う。
でも私は常に、もっといろんな顔がみたいと思っていた。
Yさんの送別会があったのだ。
時間ギリギリに入って行った私はYさんからは遠く、でも楽しい席だったのでワイワイ喋っていると、向こうから「あいつうざいんだよな」「服の色同じじゃん」と絡んでくるくるくる。
後半戦になり気づけば彼は隣に移動してきていて、顔やスタイルを褒めてきたり、反対に性格をこき下ろしてきたり、女子が送った花束を私に持たせて写真を撮ろうとしてきたりと、随分私のことがお気に入りのような動きをしてくれる。
宴会の場で、彼も調子がよくなっていたし、私もまた調子よくなっていた。
二次会のカラオケで彼の酔いは加速し、本能のままに動く妖怪のようになってしまう。
隣に女の子が入れば抱きしめ、頬にチューをし、寝言のようなことを囁き、知ってる曲が流れればマイクを求めて這い始める。
言うことは支離滅裂で、全てを百楽しんでる姿、私はそれが面白くて仕方なかった。
うるさくて聞こえないって顔を寄せれば「チューしちゃうからこっち寄ってくるな!俺チューしちゃうから!」と理性と戦う所とか、急に理性に負けてチューしてくる所とか、普段絶対言わない言葉で顔や仕草を褒めてくる所とか、頭を撫でてると急に手首を噛んでくる所とか、無闇矢鱈に踊り出す所とか、また急に理性に負けて押し倒して首筋を舐めてくる所とか、人がお酒に飲まれた姿を記録するのって最悪だと思うけど、言葉にして思い出しただけでも笑えてくる。
廊下で今更真面目な顔をして「キスしていい」と聞いた妖怪からのキスは、とろけてしまうかと思うほど柔らかくて、びっくりした。
柔らかさもそうだし、圧や動きもすごく気持ちよくて、べろはふれてないのに、なんでこんなに動揺してしまうんだろうっておもった。
彼氏のこととか明日の就活のこととか全部忘れてセックスしたいって、おもった。
妖怪はなおも続けようとしたけど、後ろからバイト仲間にみられているのを伝えて終わりにした。
とにかく気持ちのいいキスだったので、帰りのエレベーターにYさんと二人乗り込みもう一度させてもらった。
今度は入り込んできた舌が熱を持っていて、とてつもなく気持ちよくて、もう多分会えないであろう寂しさが溢れて、ドアが開く前に「私Yさんのこと好きだったんですよ」と言ってみた。
笑って、冷たい外気にやっと触れて、ようやく私は冷静になって、もう素直にYさんを家に送り届けて自分も帰ろうと決意した。
Yさんは皆の目を盗んで二人で抜けよう、ホテルに行こうと必死に画策してた。
そして他の仲間の協力もあり、無事に半勃起のYさんを家まで送り届けた。
帰りにラーメンを食べて、方向が同じ人とタクシーに乗って帰宅した。
タクシーの中で携帯を開いたら、Yさんからの不在着信が2件と、私の彼氏をdisる内容のメッセージが入っていた。おやすみなさいって返しておいた。
翌日になると彼は綺麗さっぱり昨日のことを忘れていて、ただ何かあったことだけは察してきちんと謝ってきました。ちゃんちゃん。
ただどうしても私は、あの唇の柔らかさだけは忘れられない。
うんち
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