周りでカードを持っている人はいないのに、カードと呼ぶのは不思議だ。
色々なアプリの保存マークがフロッピーディスクのままなのと同じ理由だろうが。
"便宜上"などと言い訳して新しい概念を正確に取り入れることを拒んだ先人の堕落だ。
まあいっか。今日はビールを飲みながらサッカーを見るんだ。店を出る。
制度が変わってからだいぶ経つが、ライセンスを持っている人は意外と少ないようだ。
わざわざ役所に出向いて丸一日つまらない動画を見なければならない上に、
くだらない引っかけ選択問題のテストを受けて合格しなければならない。
本当にくだらないと思う。くだらないことに時間を割く苦行こそが"ふるい"なんだろう。
まあいっか。今日は楽しくサッカーを見るんだ。一本目を開ける。
そういえば、この間のライセンス更新の時に、交付所の前で酒盛りしてたおじさんたちがとても楽しそうだった。
初対面の相手でも肩を抱き合って歌って飲む光景は、はちみつ酒が好きな陽気な人のようだった。
しかし、そのうちの一人が「酒の一滴は血の三滴」とかなんとかで献血をしていると言っていて驚いた。
さすがに汚い。酒呑みの道理にそぐわないのは承知しているが、さすがに汚いと思ってしまう。
かわいい娘に輸血の必要が生じたときに酒呑みの血が使われるなんて想像しただけでホルムアルデヒドが酷い。
家に着いて、通知に気付く。スマホで確認はしていたが、正確な年間摂取量の通知ハガキだ。
会社ではあまり飲んでいないことになっているから、勧告が出ない範囲に納めなければならない。
大丈夫。超えてないはず。破れない程度に力強くシールをめくる。健康診断勧告。
冷蔵庫からストゼロを全部持ってくる。俺は酒を飲むのが好きなんだ。
だからといって、暴力をふるったり、突然嘔吐したりなんてしない。
夜に酒を飲みながら散歩するのが好きなんだ。酒を飲んで歌うのが好きなんだ。
酒を飲みながらサッカーを見るのが好きなんだ。
変にイメージが悪くなったせいで、酒が好きだと言っただけで頭のおかしい人だと思われてしまう。
会社の先輩は勧告通知で転属になった。同僚には鼻で笑われ、中には分かりやすく避けている人もいる。酒なだけに。
学校の先生や警察やお母さんの飲酒に比べれば風当たりが弱いとはいえ、
いい歳をしたおっさんが酒呑みと知られれば結婚はできないだろう。
もういいや。勧告までくれば2~3回公道上飲酒で捕まっても受診指示までいかないだろう。
2本目のストゼロを開けて半分ほど一気に飲み、インスタのプッシャーさんに手押ししてもらった
脱法スピリタスを贅沢に流し込む。マイレシピの「ストゼロ・改」だ。
繁華街と違って、この時間の住宅街にバビロンはほぼほぼいないが、念のためボトルホルダーに入れて散歩に出る。
夕方の雨がまだ路面に残っている。肌寒い。澄んだ空気。贅沢なシチュエーションだ。
一口飲む。くはっ。めっちゃきく。最高かよ。寒い。飲む。くはっ。きく。
何の己が桜だよ。酒があるとなんでもきれいに見える気がする。
ちょっとお兄さん話聞いてもいいかな。すこしお兄さん匂うね。何飲んでるの。
ボトルの中かがせてもらっていいかな。お酒の缶だね。車の中で話聞かせてもらえる。
強いお酒入ってるみたいだけどどこで買ったのかな。ライセンス持ってないの。住所と名前は。
記録には強いお酒を買った記録が残ってないみたいですので、詳しく調べさせてもらいますね。署まで一緒に来てもらえますか。
もういいよ。
いい飲み仲間だ!ハチミツ酒を飲もう!