「古い慣習を、“伝統”という言葉に摩り替えて庇護するのではなく、その時代に合わせて柔軟に変革する。それこそが生徒会、ひいては在校生に求められることだとワシは考えております」
「副会長……そういう崇高な理念も結構だけど……先に要件だけ述べたほうが皆にも分かりやすいよ」
基本は副会長が前面に出て、会長はでしゃらばずにバランスを取るというのが、今年の生徒会の特色だ。
生徒会における活動は副会長がほとんど掌握しており、なぜその立場に留まっているのか、疑問の声がよくあがる。
何らかの大きなトラブルが発生したとき、人柱になる人間をトップにしている、というのが俺たちの間での定説だ。
「では、単刀直入に申します。“大校則”の3項を修正することを提案します」
「あ……オレっちは反対したからね……一応……オレっち以外の生徒会メンバーは……みんな賛成していたけど」
“大校則”
これを現代風にアレンジしたい、っていうのが副会長の提案らしい。
各学級の代表たちがザワつき始める。
そもそも話の要領を得ることが出来た人間が、その場にはいなかったんだ。
大校則の一部分をちょっと変えたくらいで、何がどう変わるのか分からなかった。
全ての校則を律儀に守っている生徒なんて一握りだし、破ったところで大した支障はないのが現状だったから、ほとんどの人間にとっては「あっ、そう」って具合だったんだ。
それは大校則においても変わらない。
副会長にとっては、みんなの関心の薄さが、むしろ好都合だったに違いない。
俺たち無所属の在校生に、大校則の修正案の情報が届いたのは、それから数日後のことだ。
「大校則の3項? ふーん……」
とはいっても、学級代表者と同じく、俺たちも大して関心はない。
最初は誰も気に留めなかった。
不真面目団たちも、これの意味するところが何なのか気づかなかった。
「確か3項に書かれている内容は……なんてことだ!」
真っ先に気づいたのは、ウサクであった。
ウサクはこういったことに勤勉な性格で、学校の校則も把握しているんだ。
「愚かな。生徒会の彼奴ら、そこまでするか!」
「ウサク、何をそんなにテンパってるんだ」
「分からんのか? これは貴様や、不真面目団にも大きく関係することなんだぞ!」
そう言ってウサクは生徒手帳を取り出し、その大校則が書かれている箇所を指差す。
そこには『学校でのカリキュラム、行事に直接影響する場合のみ校則は強制力を持つ』と書かれていた。
「これを修正すれば、不真面目団などの気に入らない者共を、容易に取り締まることが出来るってことだ!」
ウサクの言いたいことは、何となく分かる。
だが、俺の反応は鈍い。
取締りが厳しくなるってことなんだろうが、それは単に生徒会メンバーによる注意が、今よりもウザくなるってだけだ。
普段から守っている人間には関係ないし、よく注意を受ける人間は既に慣れてしまっているから大して意味がない。
カジマの反応も鈍い。
それもそのはず、不真面目団は別に校則を破っているわけじゃないからだ。
単に生徒会メンバーが眉をひそめるような振る舞いをしているだけで、結局は取り締まれない。
仮に取り締まられたところで、痛くも痒くもないだろう。
よくある、ウサクの過剰反応だ。
俺たちはそう思っていたが、どうも問題はもう少し複雑らしい。
「まだ分からんのか? 例えば生徒会の奴らが、『ピアス、タトゥーなど身体に影響を及ぼすオシャレは禁止、違反すれば厳しい罰則を課す』っていう校則を作ろうとしているとしたら?」
「いや、そんな校則は作れないだろ……あっ」
作れるかもしれない。
俺はその時、ウサクの本当に言いたいことが、やっと分かってきた。
ルールとは何だろう。 俺がその問いに回答するには辞書に頼らざるを得ないし、それ以上の答えは用意できない。 そういった概念について、漫然としか考えていないからだ。 知って...
≪ 前 校則を作ったり変えたりする場合、基本的には生徒会が主動だ。 他の学級代表や委員会が提案したり、是非を語ったりすることはあるが、最終的な結論は生徒会が決めることにな...
≪ 前 「……それで……こんなところに連れてきて何のつもり?」 ウサクの言っていた“ヤツ”とは、生徒会長のことだった。 「かなり警戒していただろうに、よく連れてこれたっす...
≪ 前 後日、生徒会はすぐさま対策をとってきた。 「反対×反対……え、何だアレは」 「ヤバい、“鎮圧部”っす!」 デモ中のメンバーに対して、鎮圧部が動き出したのだ。 「な、...
≪ 前 「くそっ! 生徒会の奴らめ、姑息な真似を!」 ウサクは地団太を踏んでいる。 俺は、現実で地団太を踏んでいる人間を初めて見た。 笑ってはいけない状況なのだが、それが...