2018-05-08

[] #55-6「代々大原則」

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くそっ! 生徒会の奴らめ、姑息な真似を!」

ウサクは地団太を踏んでいる。

俺は、現実で地団太を踏んでいる人間を初めて見た。

笑ってはいけない状況なのだが、それが逆に口元を緩ませようとする。

俺は左手で口元を覆い隠し、現状を分析することで気を紛らせた。

まあ、ウサクはよほど悔しかったのだろう。

校則修正のため、出来る限りのことはやっている。

それは無理を通すためじゃなく、無理を通さないためにだ。

にも関わらず、相手はそれを無下にするのだから、たまったものではない。

一体、どうすればいいのか。

俺たちには光明が見えなかった。

副会長含む生徒会メンバーが、そんな俺たちを尻目に悠々と通り過ぎる。

会長は、無言でウサクの肩をポンポンと叩くと、そそくさと生徒会の列に加わった。

あれが精一杯の慰めなのだろう。

「……ん? ウサク、襟元に紙が入ってるぞ」

だが、それはあくまで表向きのモーションだった。

会長はその時に、こっそりとウサクに紙を渡したんだ。

「何か書いてあるな……こ、これは!?

そして、その紙に書かれていた打開策に、俺たちは驚愕した。


…………

鎮圧部だ。副会長あなた校則4条の3項、及び校則8条の2項を違反したという報告を受けて、馳せ参じた」

「その他にも、様々な報告がきていた」

「なんだって!?

つの策は、いわば“目には目を”ってヤツだ。

生徒会がカジマにやったように、鎮圧部を利用させてもらった。

はいっても、カジマとは違い、副会長校則違反をしている証拠は何一つない。

要は「しているかも」っていう、“善意の報告”をしただけだ。

事実無根だ」

事実そうだったとして、現時点での我らでは、それを判断することができない。なので調査にご協力いただきたい」

「これから、しばらくの間、身辺を鎮圧部のメンバーが付いて回ることになるが、ご了承を」

しかし、ワシには生徒会仕事が……」

邪魔にならないよう極力務めるが、仮に邪魔になったとしても、そんなことは我々には関係ない」

校則修正の首謀者である副会長は、これで動きを制限されることになる。

ひとまず、妨害工作は落ち着くだろう。


…………

そして、大校則修正が決まる当日。

生徒会長が結果を発表する。

「……ということで撤回案により……大校則修正を……撤回します」

ウサクたちはガッツポーズをあげる。

「やったぞ、我々の勝利だ!」

「オイラ鎮圧部にこってり絞られている間に、なんか勝っちゃてるんすけど……まあ、いっか」

生徒会は、特に副会長は信じられないといった様子だ。

「そんな馬鹿!? 撤回案は通していないはずだ」

いや、通っていたのだ。

副会長鎮圧部によって上手く身動きを取れない隙を狙った。

もちろん、他の生徒会メンバーだって無能というわけではない。

そのまま撤回案を出しても、奴らの「後回し戦術」によって別の案ばかり優先されて通りはしないだろう。

から、逆にそれを利用してやった。

『壊れた備品の買い替え』などが書かれた紙に、大校則修正撤回案を“ついで”という体でこっそり紛れ込ませた。

これが二つ目の策、“抱き合わせ戦法”だ。

お世辞にもスマートにとはいかなかったが、こうして学生生活平穏は保たれたってわけだ。


話はこれで終わりだが、ちょっとした余談がある。

実はもう一つ策があったんだ。

それは万が一、大校則修正されてしまった場合の最終手段

修正された大校則を、更に修正する案を出すことで、元に戻そうという策だ。

生徒会が大校則修正するのは、新しい校則を作りやすくしたり、既存校則を変えやすくするため。

それは修正後の大校則だって例外じゃないってわけだ。

整備されたような道にも、抜け道があったり、獣道ができるなんてのは珍しいことじゃない。

「この策を使わずに済んで良かった」

「確かに。その案を通すために、また面倒くさいことをやらなきゃいけないのは嫌だもんな」

「違う。そもそも秩序とは、社会を安定させるためにある。その秩序が頻繁に作られたり、変わったりするのは社会不安定だということを意味するからだ」

「なんだそりゃ。だったら、大校則修正されたままでもいいってことか?」

「そうじゃない。だが、理由があるからと秩序を易々と作り変えようとすれば、生徒会の奴らと同じになってしまうだろう。その点では、鎮圧部の奴らは遥かにマシだとすら言える」

ウサクは相変わらず、変なところに拘るなあ。

最終的には、自分にとって嫌かどうかっていう話でしかないのに、やたらと取り繕いたがる。

(#55-おわり)
記事への反応 -
  • 後日、生徒会はすぐさま対策をとってきた。 「反対×反対……え、何だアレは」 「ヤバい、“鎮圧部”っす!」 デモ中のメンバーに対して、鎮圧部が動き出したのだ。 「な、何で鎮...

    • 「……それで……こんなところに連れてきて何のつもり?」 ウサクの言っていた“ヤツ”とは、生徒会長のことだった。 「かなり警戒していただろうに、よく連れてこれたっすね。ど...

      • 校則を作ったり変えたりする場合、基本的には生徒会が主動だ。 他の学級代表や委員会が提案したり、是非を語ったりすることはあるが、最終的な結論は生徒会が決めることになってい...

        • 生徒集会で、副会長が開口一番に放った言葉だ。 「古い慣習を、“伝統”という言葉に摩り替えて庇護するのではなく、その時代に合わせて柔軟に変革する。それこそが生徒会、ひいて...

          • ルールとは何だろう。 俺がその問いに回答するには辞書に頼らざるを得ないし、それ以上の答えは用意できない。 そういった概念について、漫然としか考えていないからだ。 知って...

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