「……それで……こんなところに連れてきて何のつもり?」
ウサクの言っていた“ヤツ”とは、生徒会長のことだった。
「かなり警戒していただろうに、よく連れてこれたっすね。どうやったんすか、マスダ」
「いや、別に。『相談したいことがあるから来てくれ』って頼んだら、フツーに付いてきてくれたが」
不真面目団でも何でもない生徒ならば警戒されにくいから、ウサクは俺に頼んだのだろう。
だが、俺の言葉を、誰もそのまま受け取ってくれなかった。
どうやら拉致まがいのことでもやったと思われているらしい。
それにしても、連れてきたはいいが、ウサクはどうするつもりなんだ。
まさか生徒会長を力づくで脅して、大校則の修正を撤回させるなんてわけでもないだろうし。
「それが聞きたいこと?……だったら答えはノーだよ……むしろ反対した」
意外な返答だった。
「でも……オレっち一人が反対したら通らない……っていうわけにもいかないでしょうよ」
「反対しているのは貴様一人ではない、としたら?」
「そりゃあ不真面目団は反対するだろうけど……」
「そうじゃない。学級代表や委員会の者どもに、今回の大校則修正が如何に問題か、説明して回ったのだ。すると数名が反対派に入ってくれた」
そんなことをしていたか。
ということは、生徒会長にも反対派に加わって欲しいってのが目的か。
「なるほどね……でもオレっちが公に反対派に入るわけにはいかんよ……」
会長個人がどう思っているかはともかく、生徒会のトップである以上は、それを押し殺さないとならないからだ。
味方に引き入れれば有利になるのは間違いないが、考えが甘かったか。
「誤解するな。要求はそんなことではない」
だが、ウサクの目論みは別のところにあった。
「不真面目団は生まれ変わる。『大校則修正・反対団』としてな。貴様には、それを公式に認めてもらいたい」
なるほど、話が見えてきたぞ。
不真面目団で数を揃えて、デモとかは出来るかもしれないが、それだけでは決定打にならない。
大校則修正に立ち向かうには、どうしても生徒会に干渉できる立場の人間と、そこに集う組織が必要だ。
つまり不真面目団を、公に認められた組織に挿げ替えようってわけだ。
「へえ……あんさんみたいなのが一般生徒にいたとはね……面白い……手続きはとっておこう」
ウサクは思想が人一倍強いだけの輩だと思っていたが、どうやら俺は少しみくびっていたらしい。
こうして不真面目団、もとい“大校則修正・反対団”の進撃が始まった。
「た~い! たいたい!」
「生徒会の横暴を許すな!」
「すな! すな! すな! すな!」
加入した学級代表や委員会のメンバーは、集会にて積極的に意見を発した。
そこには大校則修正・反対団の代表である、ウサクの姿もあった。
「……であるからして、大校則を修正すれば、既存の校則も作り変えなければならない。しかも、狂った内容の校則が作られる可能性も出てくる。学級は、学校の社会は崩壊する」
「懸案要素は分かりますが、そうならないよう、慎重に内容を修正するつもりです」
「そのための論拠を出せ。それに、わざわざ大校則を修正する必要性についても、生徒会は説明できていない」
普段からこういったことに関心のあるウサクは、とても弁が立つ。
さすがというか、何というか。
その時、皆そう思っていた。
だが生徒会は、俺たちが思っているよりも遥かに、これが仁義なき戦いであることを理解していたんだ。
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