2018-05-07

[] #55-5「代々大原則」

≪ 前

後日、生徒会はすぐさま対策をとってきた。

「反対×反対……え、何だアレは」

ヤバい、“鎮圧部”っす!」

デモ中のメンバーに対して、鎮圧部が動き出したのだ。

「な、何で鎮圧部が」

鎮圧部は学校の秩序を保つため、懲罰を請け負う集団だ。

あらゆる学級、委員会にも属さない、中立存在

当然、生徒会にも属さない。

鎮圧部が隷属する行動原理は、校則ただ一つ。

そんな鎮圧部が、校則違反した行為をしているわけでもないカジマたちに、接触する理由はないはずだ。

「君たち“反対団”のメンバーに、校則の7条を破ったものがいると聞いて、馳せ参じた」

校則の7条? 確か学校備品を壊したとか、そういう……」

鎮圧部が赴いた理由は、カジマたちのデモとは直接関係がない、校則違反についてだった。

だが、それは緊張感をより一層高める報せだったんだ。

「カジマ……そこの君だな?」

「な、なんでオイラだって!? あれを知っているのは……ああっ!」

鎮圧部に情報を与えたのは、恐らく生徒会だろう。

デモのものを止めることができないなら、校則適用される別の案件で取り締まればいい。

そうすれば、懲罰中の生徒はマトモに動くことができなくなる。

結局、デモもできなくなるってわけだ。

「アンタら、こんなんで本当にいいんすか! 校則が大きく変わっちゃうんすよ?」

「我ら鎮圧部は、校則に隷属することはあっても、選り好みはしない。さあ、ついてこい」

「や、やめてくれっす~」

校則適用されるとなれば、鎮圧部の動きは迅速かつ無慈悲だ。

カジマの叫びは虚しく響く。

「な、なあ、どうする? 残りの奴らで続けるべきか?」

「いや……多分、このままじゃあ、みんなカジマのようになるだけだろうな」

今回、連れて行かれたのはカジマだけ。

デモを続けることに大して支障はない。

だが、みんな校則の一つや二つ三つや四つ、守れていないことはあった。

多くは見過ごされているか、誰にも認知されていないだけである

生徒会なら、それを把握している可能性が高い。

その気になれば、ほとんどの生徒をカジマのように出来てしまうかもしれない。

そう思わせるには、十分な出来事だったんだ。

反対派を、こんな方法で黙らせに来るとは。

生徒会の奴ら、よほど大校則修正したいらしい。


…………

反対団のメンバーである、学級代表委員会にも、その手は伸びた。

はいっても、カジマのように露骨なことはしない。

もっと遠まわしな方法だ。

「何だ……? 今日集会は、随分と人が少ないな……?」

今日は学級代表は、“近々ある行事”で忙しいので欠席です。それに関係している委員会も、ね」

副会長が、坦々と報告をする。

だが、その時、わずかに口元が緩むのをウサクは見逃さなかった。

「……まさか貴様!」

集会に参加している学級代表も、委員会も、本来仕事が発生したら、そちらを優先せざるを得ない。

生徒会は、意図的行事スケジュールを偏らせたんだ。

「くっ、だが我一人でも、大校則修正議論で戦うことは出来る……」

「では、今日の議題は、まず『花壇に植える花について』です」

「な、何ぃ?」

生徒会は、更にウサクの弁舌をも封じた。

他の議題ばかりを挙げて、大校則修正に対する話をさせないようにしたのだ。

「他にもっと議論すべきことがあるだろ!」

随分と狡っからいが、これが中々に効果的だから嫌らしい。

校則修正される期日は迫っているのに。

これではいつまでも後回しにされて、俺たちは何もできないままだ。

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記事への反応 -
  • 「……それで……こんなところに連れてきて何のつもり?」 ウサクの言っていた“ヤツ”とは、生徒会長のことだった。 「かなり警戒していただろうに、よく連れてこれたっすね。ど...

    • 校則を作ったり変えたりする場合、基本的には生徒会が主動だ。 他の学級代表や委員会が提案したり、是非を語ったりすることはあるが、最終的な結論は生徒会が決めることになってい...

      • 生徒集会で、副会長が開口一番に放った言葉だ。 「古い慣習を、“伝統”という言葉に摩り替えて庇護するのではなく、その時代に合わせて柔軟に変革する。それこそが生徒会、ひいて...

        • ルールとは何だろう。 俺がその問いに回答するには辞書に頼らざるを得ないし、それ以上の答えは用意できない。 そういった概念について、漫然としか考えていないからだ。 知って...

  • ≪ 前 「くそっ! 生徒会の奴らめ、姑息な真似を!」 ウサクは地団太を踏んでいる。 俺は、現実で地団太を踏んでいる人間を初めて見た。 笑ってはいけない状況なのだが、それが...

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