2024-06-12

元母へ

元母へ。

面と向かって伝えなかったのであなたは知らないかもしれませんが、この度わたしあなた家族の縁を切ることにしました。

あなたプライドが高いので、このことを知ったら怒り狂うでしょうがあなたは父に似たわたしを嫌っていたので丁度いいでしょう。娘兼サンドバッグ粗大ゴミを捨てる手間が省けたと思ってください。

絶縁に踏み切るのに葛藤なんてありませんでした。あなたと縁を切ることは中学の頃から決めていたことでした。

あなたわたし中学の時、ひどいいじめを受けた時、泣きながら助けてほしいと頼むわたしを見ようともせずTVドラマを見ながら「がんばれ〜」と言いましたね。

その後いじめは収まらず、首を吊ろうとして失敗して、あなたはそのことを1週間後には忘れていましたね。

ロープ首に括って椅子から飛び降りものの、わたし体重を支えきれず天井に開いた穴を見てどうしてこんな穴を開けたのだ、とわたしを酷く叱りつけましたね。

そのことを1年後に冷静な口調で責めると、「私だって、忙しかたから忘れちゃうだでねー!」と幼い口調で言って謝りもしませんでしたね。

その後何かを誤魔化すように、パートで働き始めた保育所で習った「みっくすじゅーす」の歌を「みっくちゅじゅーちゅ」とわざと舌足らずな口調で歌っていましたね。

その時のあなたの汚い口元があまりに醜くて、わたしは今でもアデノイド相貌の人間が大嫌いです。

あなたわたしの全てを否定嘲笑しましたね。

あなたに似た太い足を「象の足」と笑い、あなたに似た一重まぶたの小さな目を「目ぇちっさいね!」と笑い、ビューラーで上げてマスカラをして何とか大きく見せようとするわたしを「短いまつ毛を必死に上げて」と大口を上げて笑いましたね。

その代わりわたしと似た目をした元弟のことは「男前」と誉めそやし、グレてタバコを吸ったせいで低身長のまま止まった体とブツブツに荒れた肌、緑に髪を染めた弟をかっこいいと毎日褒めていましたね。

この度ようやく準備が終わりました。

あなたに似た口元を200万掛けて矯正し、あなたが笑った小さな目に覆い被さっていた皮膚を切り取り、わたしが生まれた時流行っていたドラマタイトルをそのまま使った名前の読み仮名を変えました。

駅であなたと何度かすれ違いましたが、あなたわたしだと気付きませんでしたね。

あなたはそういう人です。安心しました。

ところで、家族としての縁を切るということはどういうことだと思いますか?

決して絶縁ではありません。わたしあなたと二度と関わらないつもりはありません。

ですが例えば、自分家族階段から落ちたら心配して助け起こすでしょう?

自分家族が困っていたら助けるでしょう?

家族ならば。

風の噂で聞きましたが、あなたが可愛がっていた息子さんはバイク事故で足を引きずるようになり、今では些細なことで怒鳴り声を上げるニートになったようですね。

プライドだけは肥大して自分ミスを認められず指摘されれば逆ギレする息子さんを自分パート代で養うのはさぞ大変でしょう。

そんな中、あなた右手リウマチに冒されコップを持つのすら辛いそうですね。

更には不運にも駅の階段で足を滑らせたとか。

階段に折り畳み傘が落ちていて、しかも踏み出した先にあったなんて運が悪いですね。一体誰の落とし物でしょうか。

骨折した足で怒鳴るニート身の回りの世話をするのは大変でしょうが、愛する息子の為ならきっとそれもあなたには幸せなんでしょう。よかったですね。他者に尽くすことは幸福への第一歩です。

そういえば、あなたの息子さん、先輩と一緒に英語教室をやるそうですね。

そのために資金を集めているとか。

毎日給料を手渡ししてくれる焼肉屋さんでせっせとお金を稼いで、とっても頑張っていますね。

きっとうまくいきますよ。諦めなければ夢は叶います

もし上手くいかなくても、あなたもっとパートを頑張ればいい話ですもんね。みっくちゅじゅーちゅ!って気持ち悪い顔で歌っていればお金がもらえて羨ましいです。

本当に、そうまでして助けたいと思える家族がいるってとっても羨ましいです。

わたしには家族がいませんので。

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