2018-02-17

[] #50-2「猫の生殺与奪権」

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猫嫌いかアレルギーかと思ったが、そういうことではなかった。

貴様ら、何を悠長にしている。あれはジパングキャットだ! 捕まえて、業者に引き渡さねば!」

ジパングキャット……

ジパング国の環境が作り出したとされている外来種だ。

そもそも猫は肉食だが、大抵のものは食べてしまう。

このため健康面を考慮しないのならば、食生活環境によって大きく異なるといえる。

牛肉の国では牛肉を食べ、野菜の国では野菜を食べ、カレーの国ではカレーを食べるわけだ。

そして、ジパングキャットはウナギ稚魚主食とした。

ジパングにはウナギが大量にいることから、そこに生息する猫たちも自然と食べるようになったのだが、これが他の国ともなると事情が変わってくる。

ウナギは俺たちの国では高級食材とされているほど希少な魚であり、国産ともなると一般庶民の手には届かないほどであった。

そのためジパングキャットはこの国のウナギ絶滅させるとして、害獣認定されていたのだ。

あん外来種をのさばらせて、ウナギ絶滅させたとあっては我が国の一生の恥だぞ」

ウサクは真剣だったが、対して周りの反応は冷ややかだった。

ほとんどの子供はそういった話を理屈の上では分かっても、その危機感までは伝わりきらない。

はあ、そりゃ大変だ、くらいにしか思えないのだ。

「それじゃあ、まあ捕まえる? ウナギ食えなくなったら嫌だし」

大した主義主張を持っていない俺たちは、ウサクに何となく話を合わせる。

「『ウナギ食えなくなったら嫌』? 何と軽薄な。『絶滅する』と言え」

俺たちからすればウナギ絶滅するのも食えなくなるのも同じようなものだと思うんだが、細かな表現の違いで何かが変わるんだろうか。

「『絶滅する』って表現じゃなきゃダメなの?」

「当たり前だ。人間の作った勝手尺度で他種の命を測るんじゃあない!」

「それだとウサクの言った『我が国の一生の恥』って理由も“人間の作った勝手尺度”なんじゃ……」

貴様とは志が違う!」

志の違いで本質が変わるとは思えないが、ウサクにとっては決定的な違いなのだろう。

ウサクはこの当時から我が強いというか、思想が強いというか。

まあ何らかの使命感に燃えているような奴だった。

そして、燃えて熱くなったウサクの相手をするのは面倒くさいのでテキトーに受け流す。

間内自然と出来た通例だ。

はいはい

「違う!もっと真剣になるのだ!」

「分かったから、さっさと捕まえにいこうぜ。目的はそっちだろ」


こうして俺たちは捕獲作戦を開始したのだが、いざ探し始めると目的の猫が中々見つからない。

あの猫、かなり人に慣れているようだから、ひょっこり顔を出してきてもおかしくないと思うんだが。

第六感とやらで危機を察知して、俺たちの思いもよらないようなところに隠れているのだろうか。

「おいマスダ! もっと気合を入れて探せ!」

もとから気乗りのしない俺は探すフリをして誤魔化していたのだが、バレバレだったようでウサクに檄を飛ばされた。

「弟を見習ったらどうだ」

「根っほり~ん、葉っほり~ん」

かに弟は歌いながらではあるものの、文字通り草の根を分けて捜しているほど一生懸命だった。

だが弟があそこまで頑張っているのはウサクみたいな志があるというわけではなく、猫探しをゲーム感覚くらいにしか思っていないからだろう。

学童仲間たちも似たような気持ちだったに違いない。

ちょっと知的に振舞ったところで、当時の俺たちは所詮ガキ。

ウサクの言っていたことが実感に繋がらないように、自分たちのやっていることが“どういうことか”も、あまり分かっていなかったのだ。

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