俺は猫を飼っている。
我ながら酷いネーミングセンスだと思う。
有名な猫のキャラクターを参考にして名づけたのだが、それが安易だと気づくのはしばらく後になってからである。
その頃には完全に定着してしまい、そいつは「キトゥン」と呼ばないと反応しなくなっていた。
俺も面倒くさいので改名はしていない。
ゾンザイだと思われるかもしれないが、実際その通りだと思う。
なにせ俺は猫が好きでも嫌いでもない。
好きでも嫌いでもないものに対して、人はとても薄情だ。
今でこそキトゥンという個に対しては多少の情こそ湧いているものの、それでも猫自体が好きなわけではない。
そんな俺がなぜキトゥンの飼い主なのか。
大してドラマティックでもないが、今回はその出来事について話そう。
今から数年前。
自分から見ても一般社会から見てもガキとして認識されている歳だった頃。
その日は弟や学童仲間と連れ立って、近所の空き地で遊んでいた。
そこで皆が思い思いの遊びをする中、弟がするのはもっぱら生き物探し。
名前すら分からない虫や動物がその空き地には多くいて、当時は何とも思わなかったが、いま考えるとかなりヤバい空間だった。
「見てよ、兄貴! この虫、すっげえ見た目!」
俺はそういったものに対して抵抗感を覚え始めており、その様子を遠巻きに眺めるにとどめていた。
「兄貴! 珍しい猫がいるよ」
「ああ、そうかよ」
「本当だって! 見てみなよ!」
俺はテキトーに聞き流すが、弟にせがまれて渋々と猫を見てみる。
首輪がないので野良だと思うが、人慣れしているのか至近距離まで近づいても猫は平然としている。
全身が白い体毛で纏われているが、背中部分だけは妙に赤い。
あまりに不自然だったので最初は怪我をしていると思ったが、血の色にしては鮮やか過ぎるので柄なのだろう。
「ニャー」
鳴き声も独特だ。
猫の鳴き声を文字に起こすとき「ニャー」と表現することは珍しくない。
だが実際にここまで、ハッキリとそう鳴く猫は逆に奇妙だった。
「え、なになに? 猫いるの?」
鳴き声を聴きつけ、他の学童仲間たちがゾロゾロと集まってくる。
すると猫は警戒したのか、逃げるようにどこかへ走っていってしまった。
「ああ~、いっちゃった……」
みんな残念がっている。
学童仲間はみんな猫好きだったのだろう。
猫の何がそんなにいいんだか。
そう思いながら学童仲間たちを俯瞰して見ていると、一人だけ険しい表情をしている奴がいるのに気づく。
ウサクだ。
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