俺は他種の生き死に対して薄情な人間だとよく言われる。
実際、自分でもそう思っているし、それの何が悪いのかとすら考えていた。
平等だっていう人もいるけど、現実はまるでそうではないだろう。
同じ人間に対してだって、身内の死と、知らない人の死を同じようには思えない。
有名人の死だって、その人のファンだったら冥福を祈りたくても、さして関心のない人物だったらスルーする。
同じヒト相手にその調子なのだから、他種に対する命の測り方はよりゾンザイだ。
ほとんどの人間が、皿に盛られた命の残骸に思いを馳せたりしない。
動物や魚を食べるのにも関わらず、イルカやクジラとか種類によっては庇護したがる。
ベジタリアンだって植物に情を感じないし、感じていたとしても動物よりは軽いものであることを事実上認めている。
だったら、どうすべきか。
出せる答えはそう多くない。
「はあ……俺が飼おう」
俺は渋々といった具合にそう告げた。
みんな驚いていた。
「厳密には『好きでも嫌いでもない』だ。好きだからといって飼っていいとは限らないように、好きじゃないからといって飼っちゃダメとは限らないだろう」
「でも、他に動機がないじゃん。何で飼おうと思ったの?」
「まあ、強いて言うなら“情にほだされた”って感じかな」
この時の俺は上手く言語化できなかったけど、いずれにしろ勝手な理由だ。
だが同じ“勝手”なら、自分の心に従ってマシだと思う方を選びたい。
何かと理由をつけて、そのエゴを避けられると思うほうが欺瞞なんだろう。
それでも答えを迫られるときがあるから、人間はその“勝手さ”と付き合っていくしかない。
そう開き直った俺は、その宿命に身を委ねたまでさ。
「馬鹿なことを。その場限りの安易な気持ちで、貴様はその猫を生かすというのか?」
「そういうことだな」
「他の猫も殺されそうになっているのを見かけたら、その度に同じ行動をするのか?」
「しないだろうな」
ウサクは呆れ果てている様子だった。
確かにこの猫を一匹を助けたところで俺たちの自己満足でしかなく、大した意味はない。
それを分かった上で出した、俺の結論だ。
「なんでそこまで、堂々と自分が身勝手な人間だと公言できる?」
「まあ、“人間のサガ”ってやつなんじゃねえの」
こうして俺は、人間のエゴによって殺されそうになっていた猫を、安易な人間のエゴでもって「キトゥン」と名づけたのだった。
今でも滞りなく飼えているのが、我ながら不思議だ。
余談だが、俺たちの国では害獣扱いのジパングキャットは、ジパングでは益獣らしい。
ウナギが増えすぎて邪魔なので、それを処理してくれるからとか。
ただ、最近はジパングキャットも増えすぎたので、天敵のジパングースを意図的に放って数を調整している。
猫を殺すほどの獰猛な動物を野放しにしていいのかと疑問に思うかもしれないが、ジパングースは寿命が短く繁殖能力も低いため、放っておいたら勝手に死ぬという算段らしい。
「この国でもウナギが増えたら、キトゥンたちは害獣にならなくなるのかな」
「どっちでもいいさ。それは“俺にとって”重要なことじゃない」
動物相手にどう振舞っても、人間のエゴであることを避けられないんだ。
せめてその選択に信念を持ち、相応の振る舞いをするのが関の山なんだろう。
「この品種は環境のせいでウナギに慣れ親しんでいただけ。だからウナギを食べなくても支障がないんだ。わざわざ殺す必要はない」 「それは分かるが、そんな理由だけで皆が納得する...
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そうして、しばらく探し続けるも、やはり猫は見つからない。 闇雲に探しても無理だと考えた俺たちは作戦を変更することにした。 「エサでおびき出そう」 「エサはどうする?」 「...
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