「ウナギを守るためだ!」
「『人間の作った勝手な尺度で他種の命を測るな』って言ったのはお前だぞ! ウナギを守るために猫を殺すってのは、命に優先順位をつけたってことだ」
「貴様らは考えが浅すぎる! もっと広い視野で物事を見ろ! 『殺される猫が可哀想』くらいにしか思っていないくせに、その場限りの安易な気持ちで猫一匹を守ってどうする」
みんなの言い分も、ウサクの言い分も、相容れないようにみえて本質は同じように思えた。
あーだこーだと理由をつけてはいるが、とどのつまりは異なる命を天秤に乗せ、どちらがより重いかを外野が言い争っているに過ぎなかったからだ。
「その猫を生かしてウナギを見殺しにするのも貴様らの身勝手だろう!」
理由が何であれ、猫を殺すにしろ生かすにしろ、それは俺たちの都合でしかないのだ。
だが、そうやって俯瞰しているつもりの俺もロクなもんじゃない。
ただ成り行きを見守り、自分自身が出すべき結論から逃げていたのだから。
その上で握った猫の生殺与奪権。
もはや俺たちは後戻りできなくなっていることを肌で感じていたからこそ、何らかの結論を押し付けなければならなかったのだ。
もはや互いの主義主張をひたすら押し付けつつ、罵詈雑言が入り混じる泥沼と化していた。
テーマが何であろうと、所詮はガキ同士の言い争いってことなんだろう。
まあ、それでも上等なほうだとは思うが。
「ええい、埒があかん! マスダ、猫をこっちに寄越せ」
ウサクはとうとう強攻策に出てきた。
「ダメだ! 渡すんじゃない!」
当然、弟たちが割って入る。
「兄貴、その猫を連れて逃げろ!」
別に猫を庇いたいと思っているわけではないが、この状況でウサクに渡したところで事態は進展しないだろう。
弟たちとの争奪戦が勃発するだけだ。
かといって逃げたところでその場しのぎにしかならない。
結局、互いが納得しなければ解決しないのだ。
「みんな落ち着いて、いったん話を整理しようぜ。よく考えてみれば、猫を殺すかどうかの二択じゃないことは分かるはずだ」
「え? どういうこと?」
「この猫がウナギを食べるかもしれないことが問題なんだろ? だったらこの猫がウナギを食べなければ、殺す必要はないってことだ」
みんなも疲れてきているから、多少のことは妥協したくてたまらないはず。
「なるほど~、頭に血が上ってその発想がなかったよ」
「ふむ、理屈は分かる」
予想通り、みんな提案に乗ってきた。
理屈が通らなくても主張を押し通し続ければ、折衷案に持っていける可能性があるからだ。
不毛な言い争いが辿る流れはいつだって同じで、俺はそれを第三者の立場から少し早めただけ。
「で、具体的にはどうするんだ?」
強いて不安があるとすれば、折衷案に持ち込んだ後のことについては俺もノープランだってことだ。
俺はあの猫が先ほどいた場所にエサを置き、そこから一歩離れた場所で中腰になって構えた。 そうしてしばらくすると、目論見どおりあの猫が姿を現す。 しかし、エサにはすぐ食いつ...
そうして、しばらく探し続けるも、やはり猫は見つからない。 闇雲に探しても無理だと考えた俺たちは作戦を変更することにした。 「エサでおびき出そう」 「エサはどうする?」 「...
猫嫌いかアレルギーかと思ったが、そういうことではなかった。 「貴様ら、何を悠長にしている。あれはジパングキャットだ! 捕まえて、業者に引き渡さねば!」 ジパングキャット...
俺は猫を飼っている。 猫の名前は“キトゥン”。 我ながら酷いセンスだ。 キラキラネームのほうが、まだマシだったかもしれない。 有名な猫のキャラクターを参考にして名づけたの...
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