そうして、しばらく探し続けるも、やはり猫は見つからない。
闇雲に探しても無理だと考えた俺たちは作戦を変更することにした。
「エサでおびき出そう」
「エサはどうする?」
「ジパングキャットはウナギが好物なんだろ。だったらウナギでしょ」
「貴様、ふざけているのか。ウナギを絶滅させないためジパングキャットを捕まえるのに、そんなことしたら意味ないだろ」
「うーん、じゃあ他の魚にする? 近くの川に行けば小魚くらいならいるでしょ」
「よし、それでいこうか」
ウナギは駄目なのに他の魚ならOKってのも変な話だが、そう思ったのは俺だけのようで皆そそくさと川へ移動を始めた。
予想どおり、川の中には小魚がちらほらいた。
道具もロクにないから必然的に手掴みでやるのだが、これが中々捕まえられない。
「そこだ!……あれ、おっかしーなあ」
捉えたと思っても手から滑り落ちていく。
弟はめげずに頑張っているが、俺はというと早々に諦めて濡れた身体を乾かしていた。
「どうしたの、兄貴。猫をおびき出すためのエサを、おびき出すためのエサでも探しているの?」
「そんなことしねーよ。猫をおびき出すためのエサをおびき出すためのエサも、おびき出すためにエサが必要だったらキリがないだろ」
「うん?……そうだね……?」
非効率ではあるが小魚のほうはいずれ捕まえられるだろうし、俺はやらなくても大丈夫だろう。
「おい、マスダの兄方! 魚を捕まえないなら、せめてバリケードでも作っておいたらどうだ」
急造したバリケードごとき、猫のジャンプ力の前では無意味だろう。
「そう言うなよ、ウサク。猫を捕まえるのは俺がやるからさ」
「貴様が? 出来るのか?」
「じゃあ、ウサクがやるか?」
「……分かった、任せよう。だが自分から『やる』と言ったからには相応の働きをしてもらうぞ」
俺の申し出をウサクはすんなり受け入れる。
ウサクも分かっているのだろう。
結局、エサで上手くおびき出せても、捕まえられなかったら作戦は失敗するのだから。
ではどうするか。
近くに潜んで、不意をつく方法はなしだ。
それに無理やり捕まえようとすれば、猫は抵抗してひっかいてきたり咬んでくるに違いない。
ましてや野良猫なんて、かなりヤバい病気を持っていてもおかしくない。
それから十数分後、仲間の一人がやっとのこさ小魚を一匹捕まえた。
掴むのが無理だと判断し、川の水を豪快にすくって陸へ打ち上げる方針に変えたところ、それが上手くハマったようだ。
「エサは用意できた。で、どうやって捕まえるつもりだ? 我々は何をすればいい?」
「念のため、お前らは離れた場所でバラけてろ。カゴでも用意して待っててくれ」
「一人でやるの?」
「むしろ人が多いとやりにくい」
気乗りはしないが、日も暮れ始めたしさっさと終わらせよう。
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