接客業といっても色々種類があると思う。
学生時代に接客をするアルバイトをしていた経験もあったし、接客態度や感じの良さを褒められることも多かったので、新卒ではじめて社会に出る上で苦労することはあれど、なんとかやっていけると思ってた。
挨拶といってもおはようございます、お疲れ様ですといった類のものではない。
自分はお店に入って来た人や、目があった人、近くを通る人に対して「いらっしゃいませ」と言っていた。
しかし、それだけでは足りない、入店することはなく、店の前を通っただけの人にも幾度「いらっしゃいませ」と言うようにと指摘を受けた。
実践すると常時「いらっしゃいませ」と言ったままの状態になる。
ほぼずっと声を張っていることに加え、店頭にいる間は水を飲むことが出来ないので、毎日喉に痛みが走った。職業上、仕方のないことだと思っていた。
次に指摘されたのは笑顔の少なさだった。
もちろん、お客様と会話をしている時は笑いながら話しているが、その他の作業をしている時、(例えば掃除や備品の整理など)真顔になっているので、作業中も口角を上げほしいとのことだった。
接客業を長年されている方には常識なのだと思う。いつどこでお客様に見られているか分からない、販売員はいつ見られても話しかけられやすい雰囲気を保たなければならない。
その理屈は分かる。しかし、作業をしていく上でニコニコ微笑むよりも、集中して丁寧かつ早めに仕事を片してしまった方がいいと思ってしまう。自分は不器用だったので、はじめは意識していても、集中してしまうと微笑むことが出来なかった。
退職する決め手になったのは、仕事中の雑談であった。自分の店は来店に波がある店舗で、時間帯によってはお客様があまり来店されないことがある。
その時間帯に店員同士が、雑談をするのだ。その内容は様々で、私生活や自身についてなど、仕事上関係ない内容も含まれていた。
他人にあまり興味がないという自身の性質に加え、仕事中に雑談をするという態度があまり好ましくないと考えたからだ。
客がいないからといって店員同士で話が盛り上がっていて、入りにくいお店を見かけたことがある人は少なくないと思う。
自分自身、そういうお店を見かけるといい気持ちにはならなかった。だから、自分は雑談には加わらなかった。他にやらなければいけない雑務を見つけてこなしていた。
すると、私は店員同士でコミュニケーションを取る気がない人物とみなされ、注意を受けた。注意のされ方は「雑談に加われ」ではなく、「もっと自分からコミュニケーションを図りに行くべきだ」という言い方であった。
もちろん、仕事上必要最低限のコミュニケーションはとっていた。
報告連絡相談はすぐに行なっていたし、人間として必要な「おはようごさいます、お疲れ様です、ありがとうございます、お先に失礼いたします」などの言葉も意識して伝えていた。
それでもまだ、足りないと言われたのだ。
この時点で接客業というのは独特な世界であることに気がついた。
外面は良いとよく言われるが、実際に深く知り合いたいと思うのは心を許せる数少ない人だけだ。
それでも、表面上のコミュニケーションが取れればこの仕事はできると思っていた。
実際に来店するお客様にも、同じ店の従業員にも、興味を持って自分から相手を知りたいと思わないとやっていけないと注意を受けた。
そして気が付いた。接客業というのは、人に見られている意識が強い人、他人に興味が持てて、話すことが好きで仕方のない人が出来る仕事であると。
まあ仕事なのでそういう「フリ」が出来るようになるまで努力するべきだったのだろうけど、自分にはどうしても苦痛で退職を決意した。
この他にも色々原因はあったのだけど、退職したことに未練はない。
不思議とお客様関連で嫌な思いをした記憶はほとんどないので、その点に関しては恵まれた環境であった。
ただ、もう販売員はしたくないと強く思っている。