大学一年生、ちょっとぽっちゃりめの冴えない雰囲気をまとっている私さんは、どう考えてもまぁモテるタイプではないんだけど、ご老人受けは元々いい方だ。
まあそりゃそうかもしれない。にこにこしてて、ブラウスにロングスカート。話しかけやすさは半端じゃないだろう。
その日、大学の試験で思ったより解けなくて、落ち込んでたので「そうだヒトカラ行こう」って大阪の商店街に繰り出した。土曜日の昼間だからそこそこに賑わっていて、初めて行くカラオケを探しながらふらふらしていた。
不意に肩を叩かれて、振り返る。そこには自分の祖母くらいの年齢に見えるひょろっとしたおじいさん。
やたらニコニコしていて、すこし考えた。この人誰だろ……。
「昼探してんのか。奢ってやるから一緒に行くぞ」
いきなり断定だった。おじいちゃんパネェの。というかナンパだよね?私、人生初のテンプレートみたいなナンパ、ご老人に受けてしまってるよ……
花の女子大学生、なかなか残念な感じなんだけどどうしてくれんだおじいちゃん!
少し後退って、苦笑いで返す。
「いえ……昼は……。カラオケに行こうと思ってて」
基本私はとてもいい子。角をたてないように断ろうと頑張ってみていた。ちなみに昼は今日は抜こうかな、その分でカラオケ行こうかな、なんて考えていた矢先のことだった。おじいちゃんは私を見つめたまま、にかっと笑ってこう言う。
おじいちゃん!!!!!!その娘の曲選はつまらないと思います!!!!!!!!!歌えるのは生憎いきものがかりとか大塚愛とかなんです!!!!!!!東方とかゲームのも歌いたい!!!!アニソンも歌います!!!!!あとKPOPも最近気になってるのあるから歌いたいかな!!!!!!TTいいよね!!!
頑張って捻り出しても三年目の浮気とか恋のロマンスでいっぱいいっぱいです!!津軽海峡冬景色ならいけるかもしれません!!!厳しい!!!お母さん世代はともかく、おじいちゃん世代は厳しいよっ!
いいから!!!諦めて!やんわり断ろうとしたこの小娘の意図を汲み取って!!!
おじいちゃんはニコニコ隣のお店を指さす。カラオケスナック。いやいや、私まだ未成年なの。オサケ イズ ノメナーイ。
かなり内心動揺しながら「いえ、いいです」と答えて、それからすこし考えた。このおじいちゃん、カラオケに着いてくるぞ。やばい。ろり声作ってきゅぴきゅぴ歌うとかできなくなる。本気のスコアアタックで異常な声量を出すとかもできなくなる。何と断るべきなのか。
「み、見知らぬ方に奢ってもらうわけには……」
「奢るのがだめなのか?」
「はい、奢られるのは……」
「じゃあ奢らないから一緒に行こう」
……は?
はい?
違うやん!そうじゃないやん??
奢らないならもう着いてく意味ないやん?ついてくわけないやん?
わざわざ一人で、友達も誘わずカラオケ行く奴が、おじいちゃんと二人を楽しそうに希望するわけないやん?
おじいちゃん?おじいちゃん??
「……いえ、行きません」
真顔で返似たような問答を数回繰り返す。賑やかの大阪の町並み。大阪のおばちゃんよりおじいちゃんが怖い。助けを求めるように通行人をちらっと見る。あ、これ、みんな見て見ぬふりのやつだ。お姉さんそういうのよくないと思う。
「彼氏と待ち合わせなんでぇ」とか言っておけばよかったと後悔した。この子は大人しそうだし、明らか彼氏いなそうだし、断れないとでも思われていたのかもしれない。こないだまでいたもん!!!!独り身で悪かったな!!!
……何とか断りきって踵を返した。振りきるように商店街を離れる。まだ行こうと思っていたカラオケの場所がわからなかったから駅へ一旦引き返そうと思ったのだった。
名残惜しそうなおじいちゃんの視線を背中に感じた。ごめんねおじいちゃん……私、パパとママにしらないひとにはついてっちゃだめっていわれてるんだぁ。
そんな私の背後から別のおじいちゃんが近づいてきた。若干自意識過剰に体を強張らせると、彼はすれ違い様、私の肩をぽん、と叩いて足を止め、こちらを振り返った。
「あかんぞ、あーいうのについてったあかん。知らん人にはついてったあかんからな。」
そのまま颯爽と駅へ歩み始めるおじいちゃん。私はあっけにとられて口をぽかんと開けながら、その背中に小さくありがとうございます、と呟いた。
同じおじいちゃんでも前者のナンパさんは私を若い女の子、後者の達観さんは孫くらいの女の子、って捉えていたんだろう。あのおじいちゃんの孫はきっと幸せ者だ。
ため息を着いて、私も歩き出す。今日のことを多分忘れない。
……とりあえず、ナンパ経験できたよ、やったね!自慢できるね!!!!
とりあえずお家帰ったら妹に、あと大学の友達にも話そうかな。そんなことを思って、またカラオケ目指してふらつく。
それは ナンパ→× からまれた→○ である。ババーン!
「君たちってお年寄りと似てる」コピペ思い出した