「キカイ」は僕たちを救うために生まれた
「キカイ」は僕たちのこころを常に穏やかに保ってくれる
新しい命が誕生しない
理由はさまざまだ
大きな打撃だった
それが「キカイ」プロジェクトだ
だが、そのときはきた
10年後、「キカイ」はこの世に産声をあげた
政府がやったプロジェクトだ、正式名称はもっと小難しい名前なんだと思う
でもこの国の人で「キカイ」を正式名称でわざわざ呼ぶやつはいない
仲の良い友人たちを今さらフルネームで呼ばないのと同じようなもんだ
それだけ「キカイ」は僕たちにとって当たり前なものなんだ
「キカイ」が僕たちに与えてくれたもの
「キカイ」は生まれてからずっと、この国に必要なものが何なのかを計算してる
今いる人たちでどうしたらこの国の経済を軌道にのせ、人口を増やしていけるのか
「キカイ」はまず、この国に経済力をつけるためにどの産業を強化させるべきか計算した
そしてそれに関わる仕事をつくり細かく分け、働ける人々に割り振った
割り振りは、あらかじめ提出した個人データをもとに最も適した人を適した仕事に就けた
「キカイ」は商品の輸出先国をリスト化し、相手国の誰と仲良くするべきか計算した
そしてまだお金がないながらも、外交上必要不可欠となる輸入品のリストも弾き出した
「キカイ」の計算に間違いはなかった
「キカイ」が指示した強化すべき産業は順調に成長し、いまや国の代名詞となった
「キカイ」が指示した手順で外交し、そのおかげで近隣諸国との関係も良好になった
「キカイ」が計算を間違えることはなかった
「キカイ」が最も適したパートナーを全国から探し出して、そして出会わせてくれる
「キカイ」が出会わせてくれた相手は完璧で、この国の離婚率はゼロに等しい
この国の人々は「キカイ」が毎日送って寄こす日程を忠実こなしていく
「キカイ」の計算に間違いはない
「キカイ」の指示通りに行動していれば、この先に待っている未来はちょっといい
この国の誰もが「キカイ」を信じている
信じる信じないの以前に「キカイ」があることで「自分」があり
「自分」は「キカイ」によって生かされている、そう誰もが “わかっている”
「キカイ」がいつもちょっと先の未来を教えてくれるから、この国には不安がない
たとえば、愛しい人が死ぬときだって、「キカイ」がちゃんと教えてくれる
悲しみに打ちひしがれ、絶望の淵にたどり着かないようにするために何をすべきか
旅立っていく人に悔いのない人生を終えてもらうようにするために何をすべきか
そして、悲しい別れを経験した人には「キカイ」は必ず新しい出会いを用意してくれている
そして、常にちょっと先の未来を知っている生活には実は喜びも存在しない
予測していないことはなにも起こらない
リズムが乱されることも、自ら乱すこともない