2014-07-30

ラノベ新人賞下読みの苦言

 結構長いことライトノベル新人賞の下読みをやっておる者です。

 このたび何が言いたいのかというと、ここ近年におけるラノベ新人賞下読みの質の低下についてです。

 ご存じの方も多いでしょうが、一時期のラノベブームの影響で新人賞に応募されてくる作品の総数は未だなお増加傾向にあり、併せて選考にかかるコストも増加の一途を辿っております

 選考においてもっとも頭数を必要とするのが、私のような下読みと呼ばれる一次選考に携わる人員です。

 送られてきた大量の作品をある程度ふるいにかける役割ですね。この辺は今さら説明せずとも巷に情報が溢れているでしょう。

 この下読みというやつは、出版社作家編集者との個人的なツテだったり、専門に業務を請け負う会社だったり、あるいは下読みを行っている者からの紹介だったりと、様々なルートで集められるのですが、応募数増加の影響でどうしても人手が足りなくなり、本来であればラノベ新人賞選考に関わるべきではない資質の持ち主までもが下読みとして選考に加わっているのが現状です。

 つい最近下読み作業に関わるようになったばかりの方々と直接に交流してみて、そう実感せざるをえませんでした。

 下読みたる者、古今のライトノベル精通していなければダメだとか、特別の目利きでなければダメだなどとは考えておりません。

 ライトノベルすらよく知らない一般の方の視点などは、素直で好ましいとすら思います

 だったら、何をもってしてラノベ新人賞選考に関わるべきではない資質の持ち主と感じたのかというと、つい最近下読み作業に関わるようになったばかりの彼らが、極めて個人的な尺度で、それも読者ではなく創作者としての視点作品選考を行っていたからでした。

 この、ラノベ新人賞選考に関わるべきではない資質の持ち主というのは、つまるところ自らもまたラノベ作家志望者であるにも関わらず、下読み作業に関係している方々のことです。

 ここ最近下読みをやってみたいと手を挙げる者の大半が、この作家志望者の方々だったりします。

 もちろんその中には公平な選考を行っている者もいるのでしょうが、私が実際に交流を持った彼らの選考基準は、それはもうひどいものでした。

 面白さというものを計るに当たって、読む人間趣味嗜好が反映されることは少なからずあります

 ですが、作家志望の彼らが選考で基準にしていたのは、なんら客観性もなければ、直感というには理屈に凝り固まった独自の創作ルールでした。

 少し前に“……”の使い方を巡って持論を展開し非難を浴びた下読みの方がいらっしゃいましたが、彼などまだ生やさしいほうです。

 以下、私が特に問題視した彼らの選考基準についてです。

自分なりの描写へのこだわりを他人作品にも押しつけようとする。

 文章力とはすなわち比喩の上手さであると語ってみせた彼は、綺麗な比喩を用いていない文章は幼稚な文章だと断じ、平易な文体で書かれていた作品をまったく評価しようとしませんでした。装飾過多でギトギトになっている文を「描写が実に細かな文章だ」と満足げに評価したときは呆れたものです。

 なお、ストーリー自体の良し悪しを判断する物差しは持ってないようで、そこを踏み込んで聞いてもぼんやりした答えしか返ってきませんでした。

創作指南書の教えを絶対だと信じ込む。

 この彼も自分なりの面白さを計る物差しを持っていません。彼にとって作品の良し悪しとは、創作指南書だったかハリウッド脚本術だったかの教えであるところのエンタメ作品セオリーに則っているかどうかなのです。

 主人公の成長、変化がないからダメ。冒頭で盛り上がらないからダメ。構成の黄金パターンは決まっているのだからはみ出ているのはダメ

 偉い人の言ったことを盲信するにもほどがあります

ラノベはこういうものだと思い込む。

 ラノベとは萌えであると思い込み。女の子活躍させているいるかどうかで作品の良さを判断する。

 一次とはい選考を行う人間がこれではいかんでしょう。

サブヒロインの印象が薄いから、これは駄目な作品」とは彼の言。

 サブヒロインの印象ってそんなに大事なんでしょうか。

 どうでしょう

 ざっと一例ですし、皆が皆ではありませんけれど、今の下読みにはこのレベル文盲が本当に紛れ込んでいます

 間違った理屈を信じ、素直な感性で良し悪しを判断できなくなった彼らの読書スキルはその辺の中高生以下でしょう。

 私が実際に接した彼らはラノベ作家志望なのにも関わらず、進んでラノベを読んだりはしないというのだから考えものです。そのくせ文章力やら構成やらに関してばかり口うるさい。

 そうでなくったって、作家志望者が選考する側に回るのはどうなのかとの懸念もあります

 モラルもまたひどいもので、下読みした投稿作の内容をSNS上で仲間に漏らすなどのことも平気で行っているようです。

 私は高次の選考を行う方々の話も聞きますが、近年、本来であれば一次で落ちてしかるべき作品が下読みから上がってくることが目立つと言われていました。

 その原因には間違いなく下読みの質の低下があると思っています

・追記

 他でも散々言ってきたのでここでも念を押しておきますが、日本語さえ出来ていれば一次は通ると言われてたのは今や昔です。

 応募総数の増加を見ればわかりますが、真っ当な下読みに当たったとして、一次選考突破が以前とは比べものにならないほど狭き門になっているのは事実です。

  • 俺、あるラノベ新人賞で三次選考まで行ったのをよそでは一次で落とされたことあるわ 文章力で落とされるレベルではなかったんだけど、もしかしたら下読みが変なやつだったのか

  • 編集は新人賞がコケたらこまるけど、下読みはその辺何も責任ないしな 気楽なもんだ

  • この時期にそんなこと思うってことは、あの賞のことかな?

  • http://anond.hatelabo.jp/20140730014718 もちろんその中には公平な選考を行っている者もいるのでしょうが、私が実際に交流を持った彼らの選考基準は、それはもうひどいものでした。 面白さ...

    • 「どんなラノベを求めているか」という指標を示さず、って毎月何冊も具体例を出してますがな…

      • どのレーベルも同じようなラノベ出してるからもうちょっと住み分けしろ、みたいな事が言いたかったんじゃね? 実際ラノベの新人賞見てるとどこもかしこもオンリーワンだのナンバー...

        • 変態的な作品ばかりが応募されてくるので「うちが求めているのは普通の今風なラノベです」と選考結果の総評に書いたレーベルがあってな…

          • 今風なラノベって聞くと異世界転生最強ハーレム伝説系や非実在青少年ドスケベ超ギリギリエロス系しか浮かばんな ある種の谷間にあたる時代なのかもな

            • ではここで最大手・電撃文庫の今年の新人を見てみましょう。 「ゼロから始める魔法の書」 転生でも俺TUEEEでもないファンタジー。ケモナー向け。 「韻が織り成す召喚魔法」 ラッ...

              • 売れなそうだけど嫌いじゃないラインナップだ 大ヒット飛ばせるイメージは湧かないけど

              • 『ゼロから始める魔法の書』は本当に普通のラノベだったと思う。 古き良き時代のというか・・・。 反面、尖ったポイントがなくて埋没してたけど。

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