政府内はともかくとして、"世間"的には東電は潰すべきという威勢の良い主張が多数を占めているようだ。
そういう主張をする人は、東電を潰すのが原発被害者にとって不利益であることを知らずに主張しているのか、それとも知った上で己の利益のために主張しているのか、どちらなのか気になる。が、前者であることを多少なりとも期待して、説明しておく。
世間一般で東電を潰す、つまり倒産(破産or民事再生or会社更生)させるべきだ、との主張は、潰して現有資産を売却することで賠償の原資を確保すべきだ、との理由によるようだ。
しかし倒産処理は、資産の現金化だけではなく、債務の減免を伴うということが、何故か無視されている。倒産主張者は「債権者にも負担を求めるべきだ」と言うが、今回の被害者もその「債権者」に他ならないことを、何故か無視している。
まず破産の場合、債権届出期間内に届け出なかった債権者は配当を受けられない。破産手続きが終われば会社が消滅するから債務を負うものがいなくなるから、請求できなくなる。
民事再生または会社更生の場合、債権届出期間内に届け出なかった債権者は、債権の内容を、再生計画・更生計画の定めに従って変更せられる。つまり債権額が一定割合に縮減される。
今回の原発事故に起因する損害は、今後数十年にわたり発生し続ける。例えば今年生まれた新生児が30年後に産む奇形児についても(少なくとも理論的には)賠償の対象となる。
しかしこうした遅れて現れる被害者は、債権届出期間内に届けることは出来ない。
なお朝日新聞の社説なんかは、倒産処理により賠償を受けられなくなる被害者には国が補償をすれば良いとする。しかし、東電の負う不法行為責任と違い、この「補償」とやらは国にとって義務的なものではない、いわゆる「見舞金」に過ぎない。この財政難の折に、賠償と同じだけの見舞いを、国民が容認するとは考えがたい。「原発を誘致した福島土人にも責任がある」というわけだ。
またとある「有識者」は原発被害については債権届出期間を延長する特例を設けて対処すれば良いとする。しかし、かかる特例の法的問題をクリアしても、次なる問題として、債権届出期間が継続している限り倒産処理は終結せず、それゆえ東電は裁判所の監督下に置かれ続けることになる。国民でも国会でも行政でもない、裁判所である。裁判所はその職能からして現状維持的な経営しか行えないが、それを30年続けるのは異常かつ危険だ。
30年後に産まれる奇形児を救済するには、東電は潰れていないほうが良い。チッソ社の存続が水俣病の患者を助けるように。
倒産主張者はこういう。「そうは言っても債務超過で賠償できないじゃないか。」
東電は必需品の独占が約束された企業であり、それ故に継続企業価値は無限大だ。したがって時間をかければいかなる借金も返済できる(だからこそ東電の社債は安全とされてきた)。
このように確実に返済できる以上、国が貸し手になることもできる。税金を投入しても、最終的に国の財政にとってプラスになる。国民負担はゼロだ。
それは、東電が借金の返済のために電力料金を上げると考えられるからだ。
関東人はこれを「国民負担」と呼ぶ。しかし現実には関東人負担だ。関東人は日本人の1/3を占めるため、彼らの不満があたかも"世間"の不満であるかのごとく扱われる。
この関東人負担を免れる論法の一つとして、倒産とともにまたは倒産に代えて、発送電分離が提唱される。値上げした東電からは電気を買いたくないというわけだ。関東人大喜びである。
しかし発送電分離を行えば東電の独占が崩れ、しかも賠償金負担によって競争上不利な地位に立つから、遠からず東電は倒産(破産)することになる。そうなれば上に述べたように、被害者が泣きをみることになる。
原発による被害の賠償は普通の会社には荷が重い。これは「補償」(賠償ではない)を国がすべきだという主張者がしばしば言うところである。国民全員の負担にすれば関東人の負担は希釈される。関東人大喜びである。
しかし、幸いにも東電は普通の会社ではないから賠償が可能なのだ。だというのに、現に賠償責任が生じた段になって市場競争に晒される普通の会社にしようというのは、被害賠償軽視に他ならない。
ついでにもう一つの論法として、原発保有電力会社に分担させよ、というものがある。しかし各電力会社の負担はその地域の電力料金やサービスを通じて各地域の住民の負担となる。つまり、負担を全国に肩代わりさせることが出来るというわけだ。関東人大喜びである。
まとめよう。
世間ウケの良い一見東電に厳しい案は総じて、関東人負担を減らし、被害者負担にするかまたは国民全体に希釈しようとするものである。
現に被害が発生してしまった以上、被害者が泣くか、東電(ひいては関東人)が負担するか、国民全体に帰責するかのいずれかとなる。
しかるに東電は(東北電力のように高台に原発を作る等の)安全確保のためのコストをケチってきた。
今そうして回避努力を怠ったリスクが現在化した以上、そのコストは全面的に東電が負うべきである。
そしてそのコストが電力料金に反映されようとも、それまでリスク回避費用を免れた電力料金を享受してきた以上、やむを得ないものというべきである。
そういう心配は福島県民が本当に泣いてからのんびり考えればええねん。
栃木:東北電力 群馬:北海道電力 茨城:北陸電力 埼玉:関西電力 東京:中国電力 千葉:四国電力 神奈川:九州電力 山梨:沖縄電力 静岡東部:中部電力 で分割統治。