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2021-06-15

原宿駅

 ある日の暮方の事である。一人の少年が、原宿駅の跡地で雨やみを待っていた。朽ちた柱に蔦の絡みついた、いまにも崩れ落ちそうな原宿駅跡地は、その昔、若人が大勢集う、たいそう賑やかな駅であったという。かつてこの地は「原宿」と呼ばれており、商いで栄えていたそうな。今は広大な荒れ地が広がり、かつての栄華は見る影もない。少年荒野の真ん中でただ一人きりであった。ただ、所々地面から、かつてのビル群の瓦礫が顔を出している。少年は雨が止むまで、その瓦礫を見詰めて暇を潰すことにした。あれは、セシルマクビーピンクラテ、そして…Q-pot CAFE少年歴史がたいそう得意であった。

 何故原宿がここまで荒れ果てたかと云うと、七十年ほど前、東京には、疫病とか五輪とか不況とか云う災がつづいて起った。そこで人々は住まいをこぞって京都に移し、それに続いて都も移された。およそ二百五十年ぶりの遷都であった。人の消えた東京さびれ方は一通りではない。荒れ果てたのをよい事にして、狐狸が棲む。盗人が棲む。半グレがでかい顔をする。バニラ業者が日夜騒ぎ立てる。とうとうしまいには、行く当てのないジャニオタたちが夜ごとに集って、オフ会をしているという噂さえ立った。そこで、日の目が見えなくなると、誰でも気味を悪るがって、この近所へは足ぶみをしない事になってしまったのである。そうして七十年の時が経ち、いつしか原宿」というと、平成・令和時代の亡霊が往来する呪われた場所としてひろく知られるようになったのだ。

 少年も、ほかの大ぜいの若人と同じように、危ないので原宿には決して近づかぬよう、両親に硬く命じられていた。しかし、少年には原宿に来なければならぬ断固とした理由があった。病床に付している、かつて量産型女子であった少年祖母が、「冥途の土産Ank Rougeが着たい」と所望したのである少年は、祖母が好きであった。特に祖母のつけるジルスチュアート香水香りにつつまれ眠ることが大好きであった。その祖母が、いまはシンプルアースカラー入院着に身を包み、力なく微笑んでいる。入院着は、無印良品であった。少年は大好きな祖母のため、アンクルージュの服を見つけてくることを決意し、家をそっと抜け出してきたのだ。しかし、七十年も前の服を探し出すことは、とてつもなく困難であった。旧東京二十三区内を隅々まで探しても見当たらない。それもそのはず、量産型女子はとうの昔に、国の絶滅危惧種指定されていたのだ。少年祖母は、その数少ない生き残りであった。

 歩き疲れた少年は、とうとう、禁じられていた原宿に足を踏み入れた。暗く、恐ろしい場所であった。荒野の真ん中にぽつねんと佇む原宿駅跡地には、多くの人の怨念が染みついているかのように思えた。少年時計のある屋根の下に腰掛け、雨が止むのをぼんやりと待っていた。頭上には、どこからか集まってきた鴉が輪を描いて飛んでいた。

どうにもならない事を、どうにかするためには、手段を選んでいる暇はない。選んでいれば、大好きな祖母は悲しみのうちに死んでしまうばかりである。尤も、痴呆の入っている祖母は、たとい思い通りの恰好ができたとしても、何もわから粗相をして汚すだけかもしれない。しかし、心持の優しい少年は、祖母エンディングノートに書かれていたことはなるべく叶えてあげたいと思っていた。手段を選ばないとすれば―少年は、そのあとに来るべき言葉の余りの恐ろしさに小さく震えた。「盗人になるよりほかに仕方がない」などというおぞましい考えが一瞬でも頭をよぎったことが、信じられなかった。しかし、一度心に生まれたその思想は、少年の心にずっしり居座り、どうにも振り払うことが出来ずにいた。

 それから、何分かの後であるマツモトキヨシ原宿駅表参道口店跡の辺りをうろつく人影が見えた。少年は、こんな場所にも人がいたのかと大そう驚いた。夕闇によく目を凝らしてみると、どうやらひとりの老婆が何かを探しているようなのである。この雨の夕方原宿をうろついている人間は、ただ者ではない。少年は両親の忠告を思い出し、身震いをした。しかし、老婆が何かてがかりを知っているかもしれぬ。少年は立ち上がると、小雨の降りしきる中、恐る恐る、老婆に声をかけに行った。

「おばあさん、すみません

老婆はゆっくりと振り向いた。少年は、振り返った老婆の姿を見て、その余りの恐ろしさに、顔をしかめた。桑色のシャツを着た、背の低い、痩せた、白髪頭の老婆である。右の手に黄色ビニール袋を持ち、左の手に、大きな紙袋を持っていた。紙袋には、けばけばしい装飾が施されている。見るとそれは、山田涼介イッピ袋であった。

ジャニオタだ。少年歴史資料集で良く学んでおり、ジャニオタを知っていた。日本史安藤先生がいうところによると、ジャニオタは四十年ほど前に最後の一人が観測されて以来、日本から姿を消したという。まさかジャニオタに、生き残りがいたとは。少年は、大そう驚いた。

「なんだい…」

老婆は唸るように呟いた。地の底から響くような、恐ろしい声であった。少年勇気を振り絞り、老婆に尋ねた。

「お忙しいところすみません、すこしお聞きしたいことがあるのですが。」

「他を当たっとくれ。私は急いでいるんだ。」

後生です、他の人が居ないものですから。」

サロン体験ならお断りだよ。」

「違います。探し物をしておりまして。

ところでお婆さん、そんなに急いでどこに行かれるのです。」

ライブ戦前ジャニショに行くのさ…ケンティーオフショを買いにね…」

そういうと老婆は、うつろな瞳で前方をじっと見た。そこには荒野が広がるばかりであった。それを見た少年は、腹の底から寒気が上がってくるのを感じた。ジャニショ。それはかつてこの地にあった多神教神殿であったと聞く。かつては多くの信者が通い詰めたその神殿は、しかし、原宿から渋谷へと拠点を移し、遷都とともに東京からもなくなってしまったと聞いている。全て七十年前の出来事だ。今となっては跡形もない。この老婆は、いまでもジャニショ存在を信じ、この場所をうろついている。うわさに聞くジャニオタの亡霊だろうか。少年身体は恐怖に震えた。

「おや…お前は」

かに気が付いた老婆は、少年の顔をじつと見詰めた。その濁ったうつろな瞳には、真っ黒なカラコンが不自然に張り付いていた。少年は後ずさりをした。

「お前はまちゅくのショタ時代そっくりじゃないか

ええ、もっとよく顔をみせておくれ」

そう叫び声をあげると老婆は、少年の顔をつかもうとした。少年はきゃあと叫び、踵を返して逃げようとした。しかし恐怖からか足がもつれ、少年の体は地面に叩きつけられた。何とかもんどりうって逃げようとする少年に、老婆が覆いかぶさる。

「ああ、尊い尊い。」

老婆はうわ言のように呟きながら、少年の腕や顔をベタベタと触った。少年の恐怖心は、次第に、老婆に対するはげしい憎悪に変わっていった。二人は荒野の中で、しばらく、つかみ合った。しか勝敗は、はじめからわかっている。少年はとうとう、老婆の腕をつかんで、無理にそこへねじ倒した。老婆は細い体を大きく震わせ、肩で息を切りながら、ぴえんと泣き叫んだ。

ファンに、ファンにそんなことをしていいと思っているのか。」

「知らぬ。第一、僕はジャニーズではない。」

少年は老婆を見下ろし、吐き捨てるように言った。心のうちで、老婆に対する憎悪侮蔑が、大きく燃え上がっていた。そうして、あることに気が付いた。老婆の纏っている布切れである。すっかり薄汚れていて気が付かなかったが、これはいつか歴史資料集で見た、アンクルージュのフリルカラーチェックワピースではないか。チェックの模様に、けばけばしいフリル。そうに違いない。それを見ると、少年の心にあるひとつ勇気が生まれた。それは、老婆に出会う前は決して存在しえなかった勇気であった。

ファンにこんなことをして、貴様アイドルとしての自覚が足りぬわ。」

「言いたいことは、それだけか」

老婆の話が終わると、少年は嘲るような声で念を押した。そうして、老婆の襟上をつかみながら、噛みつくようにこう云った。

「こんなことをする者は、ファンではない」

老婆はそれを聞くと、目をかっと見開き、呻き始めた。少年は、すばやく、老婆の着物を剥ぎとった。それから、足にしがみつこうとする老婆を、手荒く瓦礫の上へ蹴倒した。かわいそうな老婆の周りには、胸元に大事仕舞われていたしわくちゃの青い振込用紙がはらはらと散らばった。少年はそれを一瞥すると、薄汚れたワンピースをわきにかかえ、またたく間に原宿の闇に駆けていった。

しかし、嗚呼、何と残酷なことだろう。老婆からはぎ取ったワンピアンクルージュではなくミオレミューだということを、少年は知る由もない。

 その後、原宿にうろつく亡霊の噂は、はたと途絶えたという。

2019-07-11

ジャニヲタから見たジャニー喜多川性犯罪

5年前ぐらいまで頭おかしジャニヲタだった者です。訃報話題になっているので、当時ジャニヲタとしてどう考えてたかなーと思い返してみた。

こんな感じで、自己矛盾自然に同居してる状態で安定していました。

ここまで書いて思ったが、好きなタレント世代によって捉え方はすごく変わるのかもしれない。じいさんも流石にここ1020年ぐらいは精力尽き果てていたのだろうし…

とにかく、今でも大概のジャニヲタはこんな感覚なんじゃないかなと思います

タレントの口から聞くジャニーさんネタ、全部面白かったです。青春しませてもらいました。ご冥福をお祈りします

 
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