私はもうすぐ結婚する
私は8歳のときに妹を亡くした。妹が生きたのはたった1時間ほど。
高1の夏に祖父を亡くした。
その2週間後、私は短期留学に行った。両親からは良い気晴らしになるだろう、と言われた。1年ほど前から決まっていたことだから、行くしかなかった。
私は人の死と向き合うことが苦手だ。特に祖父は私にとって良い理解者だった。悲しくてしかたなかった。
留学先で彼氏を作った。彼は講師の知り合いで、夏休みを利用して私と同じくNYに来ていた。知り合いもいないし仲良くしてもらえて有り難かった。私よりも歳上でしっかりしてるけど、たまに甘えてくれるところがあってそこが好きだった。何もかもが新しい世界だった。
留学期間が終わって、彼も日本に帰ったけど住んでいる場所は離れているので遠距離になった。でも、移動にそこまでは時間がかからないので彼は休みになると会いに来てくれた。
あまり悲しくなかった。うちはお世辞にも良い家庭とは言えなかったし、離婚が決まっていた。他の家庭に比べれば私は恵まれていただろう、でも、私は不幸だった。お金に困らせなければ良いのだろう、うちはそんな家だった。母からは嫌われていてゴミ以下だと言われ続けていた。父からは見えない存在として扱われていた。夫婦仲も最悪でケンカが絶えず、私はいつも息が詰まりそうだった。私が病気になったのは両親のせいだった。
私を引き取ってくれる親戚はいなくて、留学先の恩師、彼氏の知り合いだ。そこの夫婦が私を引き取ってくれると名乗り出てくれた。子供に恵まれず1人の男の子がやっと生まれたがもっと子供が欲しかったからと私を歓迎してくれた。
新しい両親はいつだって仲良しで、新しく出来た弟はとても可愛くて私のことを慕ってくれた。私が望んでいた、憧れていた家族とはこういうものだった。
でも、幸せはそう長く続かなかった。
受験がやっと終わったが持病が悪化した高3の秋。病気とはそう簡単に受け入れられないものだ。葛藤している私に、彼氏が旅行に行こうと言ってくれた。
彼氏は日本とイギリスのハーフだ。大学生になるまではイギリスに住んでいた。母にも会わせたいからとイギリスに行くことになった。
観光をして、彼のお母さんに会った。彼のお母さんはデザイナーだ。現代を生きるかっこいい女性で、きっと誰もが憧れるような存在のはず。
でも、市街を探索しているとき銃声がすぐ目の前で聞こえた。嘘だ、と思った。私達も慌てたし、周りの人たちも慌てていた。彼は大きな声で逃げろ!と言っていた。そしたら彼がすぐ隣で撃たれた。背後から胸を撃たれていて、彼はそのまま倒れた。私は逃げようなんて思えなくて、まだ聞こえる銃声を耳にしながら一生懸命助けを求めた。圧迫しながら止血をすればいいんだっけ?なんて考えながら自分のマフラーを使って止血した。近くにいた人が救急車を呼んでくれた。
気付くと銃声は止んでいて、私は助けを待ち続けた。彼に声をかけ続けて、眠らないように話し続けた。大量に出血していて、彼はもう意識が半分無くなっていた。彼は助からないと思っていて、愛してるよ、と何度も言ってくれた。
救命士が来た頃、彼は意識を無くしていた。残念ながら、と言われた。やっぱりそうか、と思った。遺体からは離れられなくて、血だらけなのにも関わらず泣き続けた。嫌だ、なんで、愛してる、なんで、散々この言葉を繰り返した。
彼のお母さんが駆けつけてくれて、両親にも連絡が行った。棺に入るには若すぎる死だった。
どうして私の周りの人は死んでしまうのだろう、私だけこんなに悲しまなくてはいけないのだろう。そればかりを考えた。
そこから私は荒れた生活を送っていた。彼氏は作らないことにしていたが、少しおかしな男とつるんで鬱になりかけた。そのおかげで大学は半年で辞めることになった。両親には本当に悪いことをしたと思っているが、許してくれた。真面目にこれからは働くなら構わないと言ってくれた。
それまではただの知り合いだったが、大学に入りたての頃とある男性と会う機会が増えた。母親の仕事関係の人なのだが、少し偽善者っぽいけど面白い人だ。その頃はやたらとテンションが高くてうざかったから苦手意識を持っていた。
仕事の手伝いを頼まれたとき、彼ときちんと話す機会があった。彼はバツイチで、子供もいた。仕事ばかりで奥さんに出ていかれてしまった、後悔していると話してくれた。子供にはほとんど会わせてもらえず、養育費を払うだけだと言っていた。真面目なところもあったのかと失礼なことを考えてしまったが、私も自分のことを話してみた。これまで亡くなった彼氏のことや自分の抱えているものについて話そうと思えたことはなかったのに、彼には話そうと思えた。奔放な生活も止めなくてはいけないと分かっているのに止められない、悲しみの拭い方が分からないと打ち明けると彼はどうすればいいか教えてくれた。
それからはきちんと生活を変えようと思えたし、何よりも心が軽くなった。
亡くなった彼氏とはまた違った部分で彼は新しい世界を見せてくれる人だった。お互いを尊重し合うこと、信じること、対等でいること。1度結婚に失敗しているからかもしれないけど、良い夫婦になれるだろうなと思った。
やっと、亡くなった彼氏は思い出になっていた。
交際期間はたった2年ほど、でも思い出はたくさんあって、愛もたくさんあった。
私の悲しみも全部受けとめてくれるから、彼とは結婚しようと思えた。今日までも、色々なことがあった。でも、私はこの人生を受け止める用意がやっと出来てきた。これからもまた試練が待ち受けているかもしれないけれど、これからは夫ができる。夫婦で乗り越えていこうと思う。